@ItsukiHaruma_JP / 第60話

第6章:生存の幻想

私たちはそこで、睨み合ったままだった……。 あたしの体は、まるで内側から氷水をぶっかけられたみたいに震えてたけど、視線だけは絶対に逸らさなかった。恐怖を見せるなんて、死んでもゴメンだもん。あの男はあたしを、とんでもなく質の悪い冗談みたいに見てる。 「さて……長くはかからん。怖がっているだろう? すぐに終わらせてやる」 剣闘士は、まるで恩着せがましく、自信満々にそう言った。はぁ? 何様だよ。 そいつは剣を抜き始めた。あの剣、めちゃくちゃ重そうに見えたのに……小枝みたいにブンブン振り回してる。あっという間に攻撃態勢に入った。 その瞬間、観衆が興奮して叫び、拍手喝采を送る。そりゃそうよね……人間同士が一人残るまで戦うのを見るのは、この忌々しいウジ虫どもにとっては最高に盛り上がるイベントなんだろうし。 あんな奴の攻撃、あたしが防ぐなんて夢のまた夢だ……。 だから、あたしに残された唯一の選択肢を実行する。 逃げる! あたしが走り出すと、そのアホはすぐに剣を構えて追いかけてきた。 「卑怯者め、堂々と戦え!」 剣闘士は、ちょっとイラついてるみたいに叫んだ。 「人を殺すってことを、なんてエレガントに言うのよ!」 あたしは皮肉たっぷりに言い返したけど……内心は死ぬほどビビってた。 あっという間に距離を詰められた。そりゃ当然だよね――体格が違いすぎるもん。 あたしはパチンコを取り出して、走りながら石を込めて、撃った。 石は奴の頭にクリーンヒット。奴は額に手を当てて後ずさった。 アリーナはシンと静まり返って、まるで全員がショックを受けてるみたいだった。 奴はあたしを、全然友好的じゃない顔で睨みつけてくる。 「まさか、そんなもので俺に勝てると思っているのか?」 剣闘士は、わずかに苛立ちを滲ませて尋ねた。 「もっといい作戦があるなら教えてくれる? チャンピオンさん?」 あたしは、貴重な数秒を稼ごうと答えた。 だけど、奴はあんまり話す気がないみたい。 剣闘士は、剣をまるでオモチャの槍みたいにあたしに向かって投げつけてきた。 それが、恐ろしい速さで飛んできた。 数ミリのズレ。ヒュッと風を切る音と同時に、腕にジンと熱い痛みが走る。見れば、腕にはうっすらと切り傷ができていた。 刃は轟音を立てて、壁に深々と突き刺さる。 ドクドクと血が流れる……。 一瞬、ショックで痛みが吹っ飛んだ。あれ、人間技じゃないでしょ?あと一秒でも遅れてたら、あたし今頃、墓の下行きだったってこと!? ヤツはあたしの隙を突いて、一気に間合いを詰めてきた……!パンチが来るのが見えなかった。 やばい!防がなきゃ!! 反射的に、盾を構える。 「防ぐ」って言葉は、ちょっと違うかもね。 あのパンチ、あたしは生き延びた。 でも、尋常じゃない威力で、盾越しでも吹き飛ばされて、アリーナの壁に背中を強打した。 ゴッと鈍い音がして、肺から空気が全部抜けちゃう。 腕は痛むけど、まだ動かせる。でも、息切れがひどくて……この状態じゃ、長くは走れない。 壁に刺さった剣が、あたしのすぐそばにある。 あいつに使うには重すぎるけど……ヤツは素手で攻撃してきてる。もし武器持ってたら、とっくにそれ使ってただろうし――そしたら、あたしに勝ち目なんてなかった。 まだ何か隠してるのかもしれないけど……とりあえず、今は素手ってことでいいかな。 ヤツをあの剣に近づけちゃダメ。絶対。 素手のアイツと戦うのは、ほんの少しだけど、あたしに有利に働くかもしれない……ほんのちょっとでもね。 あたしはもうボロボロで、ゼェゼェと息も絶え絶えだった。 それでも……。 鉈を手に取って、ヤツの方へ向かい始める。 薫様が言ってた通り、攻撃して、離れる。 観衆はもう、戦いに興奮マックスって感じ。叫び声が聞こえる。 「さっさと殺っちまえ!」 「チャンピオンがヘタレになったぞぉ!!」 剣闘士を見ると、さらに激怒してるみたい。これ、アイツにとって個人的な恨みになっちゃってるじゃん。 ヤツがあたしに向かって突進してくる。 剣に触らせるわけにはいかない。 鉈をヤツに向けて構える……。 けど、緊張しちゃって。 あたし、一度も人殺しなんてしたことないのに。 躊躇した。 その一瞬の躊躇を、ヤツは見逃さなかった。 膝蹴りが顔面にまともにヒット。鉈があたしの手から滑り落ちる。視界が真っ暗になって、ほとんど何も聞こえない。 あたし、意識が飛びそう……。 ホント、あたしって役立たず!こんなとこで目なんか閉じたら、マジで寝込みを襲われるじゃん! 剣闘士はあたしの髪を掴んで、トロフィーみたいに持ち上げた。その痛みで、一気に目が覚める。ヤツはあたしを放り投げると、腹に猛烈な蹴りを叩き込んだ。 尋常じゃない衝撃。 体が地面に叩きつけられるのがわかる。 聞こえるのは、ヤツが壁から剣を引き抜く足音だけ。 あーあ……。 あたしの物語、これで終わりなのかな。

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