逸漣 / 第61話
最終話 秘密の結婚式
アトリエの天窓から差し込む朝日の柔らかい光が、二人を祝福しているかのようだった。
二人は頬を赤く染め、麗奈がお揃いで仕立てたアンティークレースのドレスを纏い、静かにお互いを見つめ合う。
「本当に綺麗よ、麗奈……」
「百合子さんこそ、よく似合っておりますわ」
そして、瞳を閉じて……深呼吸を一つ。
「さあ、麗奈。練習した通りにね」
そして二人はそっと手を重ね、永遠の愛を誓い合った。
「「病める時も健やかなる時も共に愛を誓います」」
互いの指に金の細い指輪をそっとはめたその瞬間、フワリと輝き、体の中に温かなものが広がっていった。
麗奈のロングウェーブは光を受けて柔らかく揺れ、金色に光る。
百合子の黒髪も肩先でそっと揺れていた。
抱きしめ合う手のひらの温もり、指先で触れるレースの感触……すべてが胸にじんわりと沁み込んでくる。
ベールをそっと持ち上げ、そっと唇を重ねた。
巡る季節を思い出し、二人は……これからも共に生きていく。
三脚にコンタックス三十五ミリカメラの十秒タイマーをセットして、何度も写真を撮りながら、二人ははしゃいでいた。
「今日は特別な日ですわ……ワタクシ達の秘密……」
麗奈は百合子の胸に顔をうずめ、その温もりと心臓の鼓動を感じながら、静かに秘密を分かち合った。
唇が触れ合うたびに甘い電流が走る。指先で髪を撫で、頬をなぞり、肩に手を回して引き寄せる。その一つ一つの触れ合いが、幸福をより深く染み込ませていく。
「世界にたった一人の大切なひと。百合子さんの笑顔も、声も、優しさも、全部が奇跡みたいに私に届いています」
その言葉に百合子は、甘く蕩けるような胸の高鳴りを感じながら、麗奈の温もりに身を預けた。
「今日は思い切り甘やかしたいですわ。抱きしめて、『出会ってくれてありがとう』って何度も囁きたい……」
百合子も麗奈の耳元に優しく囁き返しました。
「麗奈、結婚おめでとうございます。あなたも主役なのよ、ワタクシも甘やかして差し上げるわ」
「百合子さん。もう一度、誓いの口づけをしてもよろしいかしら?」
柔らかな光の中で唇を重ね、二人は愛と幸せを確かめ合った。
「ええ、何度でも……麗奈のお気に召すままですわ……」
神様の光に包まれたドレス、金色の指輪がキラキラ煌めき、眩く瞳に映る。
この日、二人の心は解けてひとつになった──
◇
一週間後、現像された写真を並べ、「これは?」「こちらも素敵ですわ」と、微笑みながら二人が選んでいた。
「これが良いと思うわ」
「私も同感ですわ」
二人が最後に指さした写真は、アトリエの天窓からの朝日に照らされて破顔して抱き締め合う姿が映っていた。
百合子が描いたスケッチブックの最後の頁の、花をたくさん描いた枠の中にその写真を貼り付けた。
二人は紅茶を飲みながら、スケッチブックを縁側で眺める。
春風が桜の花びらを連れて、庭を通り抜けていった。
──穏やかな春の日、こんな日がこれからも続いてゆきますように。
「百合子さん、おばあちゃんになっても縁側でお茶を飲みましょうね」
百合子は頷き、麗奈の手にそっと自らの手を重ねた。
金の指輪が光って、それが心に灯るように感じた──