人生平坦道 / 第13話

こいつ、動けない私に乱暴する気だな

 ――少し時間は遡りルナ宅。 「分かったわよ、死体の山は築き上げない、これでいいでしょ」  冷静さを取り戻したセラがため息をつきながら答える。  彼女は自分の睡眠を邪魔されることを何よりも嫌うのだ(ノエルが布団に入り込んできた場合は除く)。 「とりあえず話し合いで解決しろ!いいな」 「解決しなかったら実力行使でいいわね」 「殺すのは絶対ダメだからな」  殺さなかったら何をしてもいいのかい? そう言いたげな表情をするルナとベオウルフは置いておいて話を続ける。 「報告書も明日貰いに行かないといけないから出来る限り問題は起こしたくないんだ、分かるだろ?」 「あーはいはい」 「私としましても日に日に同志の顔がやつれていくのは見たくありませんなぁ」  はいはい分かった分かったと手を振りジェスチャーをするセラ、本当にわかっているのかこいつ……。 「という訳で行くわよルナ」 「え? 私ですか?」 「あんたしか村長の家知らないでしょ?」 「いやでも……二人は来ないんです?」  その言葉には私をこのような凶悪暴力シスターと二人きりにしないで、といったニュアンスが入っていたのだろうがそんなことは知らん。 「私は見ての通り自分で起き上がることすらも出来ない状態だ。暴走したら仲裁してくれ」 「私も起きるのが精一杯ですな、かたじけない」 「無理無理無理! 私にはそんなこと出来ません」 「という訳でさっさと行くわよ」  いやぁあああと叫びながら首根っこを掴まれ家を出ていく二人の姿を見送った後、ベオウルフに視線を送る。 「体が動かないなぁ、これでは何をされても抵抗できないぞ?」 「それでは私は後片付けをしておきますので何かありましたらお呼び下さい」  そう言って私の傍から離れてほうきと塵取りを持ったかと思えば破片やら割れた食器やらをせかせかと掃除を始めるベオウルフ。  駄目だなこいつ、まるで分っていない、ニーズを……今自分が何をするべきなのかを……何が君の幸せなのかを……。しばらくいじけていると近くで声が聞こえる。 「アネット様準備が出来ました、失礼いたします」 「えっえっ?」  おもむろに私を両手で抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこをされ客室の布団まで移動する。ドクン、ドクンと波打つ鼓動が大きくなるのが分かる。  初めて男に抱き抱えられたことによる緊張と恥ずかしさが入り混じり頬が紅潮してしまっているのが自分でも分かる。心臓の音が聞こえていないかとチラッとベオウルフの顔を見上げるもこいつは凛とした表情をしており何を考えているのかは分からない。  そっと整えられた布団の上に降ろされる、服はまだ乱れたままで顔が沸騰するように熱い、呼吸が荒れごくりとゆっくり唾を飲んだ。 「そ、その……優しく……してください……」  口に手を当てチラリとベオウルフの顔を見る。その神妙な顔つきからはどこか男らしさが醸し出されていた。先程触った筋肉質な固い身体の感触がまだ手に残っている。準備……等は出来ていないが、求められるとならば……うん。 「ははっご冗談を」  ベオウルフは即答し部屋を出て扉を閉める。  ぽつんと暗い部屋の中に一人取り残され、恐らく掃除の邪魔だったんだろうと後から気付く。  一人仰向けになったまま涙が両頬を伝うように流れ出てくる。目を閉じるとエルフ共の盛っている声が聞こえてきた。  セラを止めるべきでは無かった、私も一緒にエルフ狩りに参加して打ち首獄門にしてやれば良かったんだ、それともエルフの血で体でも洗うか。 「フヒッ、フフッ、ハハハッ」  セラたちが帰ってくるまで私は誰にも聞こえないように小さく笑っていた。
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