人生平坦道 / 第10話

私じゃなきゃキレてるね

「所で何でこの子だけその……発情期に入って無いのかしらねぇ?」  セラがワインを片手に持ちながら疑問をぶつける、ルナ本人も眉間に皺を寄せ首を傾げている、やれやれだ。 「エルフの発情期は所謂流行り病なんだ、森の精霊の加護を受けたエルフにだけ発症し、強い生命活動・交感欲求・発熱が大体百年周期で発生するらしい。日食やら魔力の過剰反応だったり理由は諸説が多くあるから分からないが……短くて一ヵ月、長くて二か月くらいの期間になるらしい」 「な、何でそんな事知ってるんですか?私達も知らないのに」 「そんなこと言われても……私も【生態系大百科典】で読んだだけだから分からん」  両方の手の平を見せ分からないとジェスチャー。ただ分からないのは何故ルナだけがその流行り病にかかっていないのかという事だった。 「あぁ……、私精霊の加護無くなっちゃったんですよねぇ」  あはは……と頭をルナは搔いていた。  気にはなるがあまりプライバシーにも関わってくる為、事情の詮索はしない方がいいのかと思い追及しなかったが、ルナが続けて口を開く。 「昔いたずらで精霊を石に括り付けて肥溜めに沈めたことがあって……それ以降何か身体に烙印を押されちゃったらしくてどの精霊も近づいてくれないんですよ」 「ひどい話だなぁ。」 「全くです、そのせいで村でも一人仲間外れ。謝ってるんだから許してくれればいいのに」  お前がじゃい。  そう口に出そうと思ったがギリギリの所で踏みとどまった、セラも同様なのか目を閉じたまま眉毛だけが吊り上がっている。 「まぁそのせいあってかずっと家で魔導書を読み漁っていたのでこの村一番の魔法使いになりましたけどね」 「あなた年はいくつなのよ、仕事は?」 「今年で百八十歳になります。仕事はしていません、手伝おうとすると他のエルフに『触らないで!』と強く言われるので」 「出稼ぎは? 仕事が無いと飲み食い出来ないじゃない」 「何度か村を出ようとしたことはあるにはあるんですが何故か村に戻ってきてしまうんです、一度食料調達の為狩りに出たことがあるんですが何も取れずでして……帰って村長に相談したことがあるんです。そしたら村長が食事を用意してくれることになりました」 「毎日何してるの?」 「魔導書を見てご飯食べて、日向ぼっこをしてご飯食べて、魔法の鍛錬をしてご飯食べて……」 「……。その生活はちなみにどれくらい?」 「八十歳になる前位ですかね」  ………。  とどのつまり目の前にいるダークエルフは百八十歳のモンスターニートだということが判明した。恐る恐る私はルナに質問をする。 「もしかしてベオウルフを家に招いたのって……」 「食事の用意がされてなくて……ベオウルフさんが料理や家事ならできるって言ってたから家に招きましたが?」  そっくぁ……。言葉を失ってしまった。  こいつ、可愛いのは容姿だけ、|屑《くず》の成れの果てなのではないか。  いや、ついさっき私は偏見で物事を判断しないと……そう誓ったではないか、内面を理解してこそ、相手の意図を汲み取ってから善悪は生まれるのではないか?  勢いで流されない、それが騎士道というものだ、そうだ、そうに違いない。ベオウルフの腹を森で切ってしまったのはミスだ。ミスをしない人間などいない、大事なのはミスをした後の行動なのだ。  では行動に移したのか? 知らん、過去は振り返らない、目が何故前に付いているか知っているか? それは未来を見据える為だそうだろ?  そうこう考えていると酔いが回ったのか顔が赤くなっているセラがベオウルフの肩を組みながら話しかけている。 「ベオはこれからどうすんのよ、いつまでもここに滞在する訳じゃないんでしょ?」 「それは確かにそうですが……死人こそは出ておりませんが部隊は壊滅、このまま一人おめおめと帰った所で族長や助けを求めたエルフ達に合わせる顔が無いのです。このような不甲斐無い私には行く当てが無い、それこそ腹を切って詫びを入れる所存です」  がくっと肩を落とし項垂れるベオウルフに微笑みながら耳元に囁くセラ。 「なら家に来なさいな、グレイシア王国の教会シスターだから迷える子豚を導くのは私の務めよ。王国自体が他種族の人権を認めているからオークも問題無く住めるはずよ。特にハイオークはね。別に信仰とかも求めないし……」  ……誰だこいつ。  何をまるでシスターらしいことをしているんだ、騙されてはいかんぞ、こいつは暴力で全てを解決してきた反社会的勢力の主といっても過言ではないのに……。  きっとボロ雑巾のように死ぬまで酷使するに違いない。偽善に偽善を重ねているからそういった言葉が平然と出ているだけなのだ、うん。 「そ、それは願ってもない話ではありますが、本当によろしいのですか?そもそも他の教会の方々や信仰する人達に不快な存在であるかも知れないのに……」 「そんなことを言う奴は前歯と顎の骨折ってやるわよ、まぁ無理強いはしないけど……」 「いえ是非その提案には乗りたい所ですがルナ様のこともありますし、このまま一人にする訳にはいかないかと……」 「そうです! 先に私が雇っているので! 雇い主の私を先に話を通すのが筋だと思います。そしてその提案には乗らせません、このままここにいて貰います」 「ピーピーうっさいわねぇ、こんな社会のゴミは飢え死にさせた方が皆喜ぶわよ」 「ひどいッ! っていつの間に私の評価がそんな地の底まで落ちてるんですかぁ⁉」  泣きながら「どこにも行かないでぇ!」と腰にしがみ付いて離そうとしないルナ、それを「どこにも行きませんよ」と優しく宥めるベオウルフの姿が良い絵になっていた。この後方の角度から見るとすごく卑猥な事をしているように見えるな……。 「じゃぁ仕方ないわねぇ、そこのルナも連れてきていいわよ」 「えっ、私も王都に住めるんですか? こ、こほん、仕方が無いので私も王都について行ってあげてもいいですけど?」 「じゃあいいわ、あんたはここで朽ち果てろ」 「嘘でしゅ、どうかお願いします私も一緒に連れて言って下しゃいぃいい」  ルナは泣きながら膝を付いて懇願していた。  エルフってプライド高いんじゃなかったっけ? 構図がすごくいじめているように見えるのは私だけだろうか? まぁ実際違いは無いのだが……。  だがそんなことよりルナの今の体勢を見て私は口を出さずにはいられなかった。 「いいか! もっとへりくだった姿を見せろ、腕は地面に対して垂直にして額は地面に着くか着かないかぐらいだ」 「こ、こうですか?」 「違うこうだ。そしてこのままの姿勢で相手の顔を上目遣いで見上げるんだ、要望が通らないと死んでしまうくらいの絶望する寸前の表情をしろ! そうだそれでいい、そのまま相手が喋るまでその体制でいるんだ、そうだ! そして心の中で靴を舐めさせて下さいと唱えろ。」 「お前は何を教えてんのよ!」  平手打ちをされた、その勢いで円卓に頭をぶつけガッシャーンと器が壊れる音がする。  まぁ悪くはないだろう、フッと笑い赤く腫れた頬をさすりながら立ち上がる。 「だ、大丈夫ですか?今手当を……」  はわわ……と言わんばかりに動揺しながら救急箱を用意しようとするベオウルフを手で制止し、構わないと目で合図を送る。  そしてルナが恐怖で怯えた表情でこう言った。 「わ、私の分も受けて下さるんですよね?」 「なぬッ⁉」  ……ひゅ~ッ、私じゃなきゃキレてるね。  何が怖いってこのエルフは本気で言っているであろうということだ、びくびく震えてるし。お前のような天然がいるかと言ってやりたいよ全く。 「まぁいいわ、ルナも付いてきても。ちゃんと働き口は探しなさい、ニートなんて許さないから」 「は、はぃ~い」  こうして話し合い? が終わる。  ベオウルフは王都に行く前に一度オークの集落に一度戻り、エルフの村とオークの部隊状況を説明を行い族長の判断次第では詫びを入れ、無事に生きていれば王都の教会に顔を出すとのことだった。

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