人生平坦道 / 第6話

オークとの邂逅

「ルナ様、やっと見つけた……」 「い、いやぁああ! 来ないでッ!」  怯えるルナに近づこうとしていたのはハイオーク、まるで|宥《なだ》める様に手を前に出していたが私にはその目が欲望を隠せないように見えた。  正直私は期待していたんだ、エルフの村で一体何が起こっているのか、私の想像をはるかに超えるものを目の当たりにして自我を保てるのか……といった不安を感じながらも、歩を進める度に鼓動が聞こえる程に鳴り止まなかった。  だがそれは全員が成人しているという大前提があっての物だった。――私にも正義の心はある。  大人の汚い心が芽生えていない、輝くような綺麗な目や心をした無邪気な笑顔を見出す子供達、それらを悲しませ穢そうとする者は許せなかった、それがいかなる理由であれども……。  怒りが沸々と湧き出てくる、それは形こそ持たないがただ赤黒く心の中で滲み瞳が凍てつくように冷え切っている。 腰の直剣を手に取り炎を纏わせハイオークに近づく。ハイオークもこちらの殺意に気が付いたのか慌てて制止しようと手を上げているが知ったことではない。 「えっ? ちょ待っ――」 「滅竜破斬《ドラグブレイク》ッ!」    ――一閃。  大地を蹴り出すと共に一瞬でハイオークの後方に動き同時に腹部を薙ぎ払い上下に引き裂く。  ――ブシャァッ! とオークの分厚く筋肉で纏われた胴体から鮮血が吹き出す。  ハイオークは何が起こったのか分からないまま切断された痛みに苦悶の表情を見せ、声すらも出せないままバタリとその場に倒れた。 「あ、あれは滅竜破斬《ドラグブレイク》!」 「し、知ってるんですかセラフィーナさん⁉」 「ええ、私も見るのは初めてだけど本人から技の詳細はアホ程聞いているわ。確か剣に炎の魔法を纏わせて放たれる必殺剣だとか……」  後方で何やらセラの解説が始まる。少し気恥ずかしさを感じながらも満足感と高揚感に唇が緩み、僅かに吊り上がるのは無理もないだろう。 「技のインパクトはあるけれど、切った瞬間に傷口を炎で焼いているから切断部がくっついて応急処置していることになるのよ、ぶっちゃけ普通に切った方が殺傷力はあるわね」 「た、確かに切断部がくっついてます、血管も焼いているのか出血量も思った程無いです」 「ちなみに魔法や技名はわざわざ口に出さなくてもいいわ、昔は詠唱とかあったらしいけど現代において基本必要ないわね」 「それはちょっと思いました、この人急に叫んでどうしたんだろう? って」 「滅竜(笑)とか言ってるけど竜を倒したことも無ければ逢ったことも無いはずよ、あの子国から出た事無いし」 「えぇ……、逢ったことないのに滅竜とは……そもそもドラゴンに炎系統の技は効くんでしょうか?」 「もう止めてぇえええッ! それ以上は言わないでぇえええッ!」  恥ずかしすぎて聞くに堪えられなかった。  そうじゃないんよ求めているのは。解説にはもっと敬意を持って話してよ、関心や威信が欲しいのであって正論や核心めいた事を言って欲しくはないんよ。  二人の口を手で抑えているとドサッと音がした、ハイオークが仰向けになり荒い呼吸をしながらこちらに目をやる。 「本当に……済まなかった、傷つけるつもりはなかったんです……、悪いが全身を焼いてくれないだろうか? 魔物達の供物になるのは……嫌なんだ」 「とりあえず死ぬのは何があったか事情を話してからにしなさいよ」 「……。ありがとうございます」  セラが回復魔法をかけ腹部の傷が一瞬で無くなる。同時に横になっていたオークの顔が紅潮した。  恐らくその前に言った言葉が恥ずかしくなったのであろう、可愛いなこいつ。  ぷふっとこぼれる様に我慢していた笑いが口から出ると同時にセラとルナが私を細めた目で見てきた。 「で、どういうことなんだ? お前がこの子を捕まえて予想だにしないハードなプレイをしようとしていたんだろ。言え! 一体どんなプレイでこの子を曇らせようとしていたんだ? 事細かに言うんだ、説明が難しいのであれば私で試してみてもいいんだぞ、むしろ推奨だ」 「そんな滅相もございません、私は村から1人で出ていくのを見かけたので危険と思い追いかけてきた次第でございます」 「つまりなにか。捕えていた性奴隷が逃げて助けを求めることを危惧したお前が連れ戻しに出向いたということだな、貴様やはりただでは済まさんぞ」 「まさかそんな! 私はただ1人では魔物に襲われる危険があると申しているだけで……」 「ああ、だから今まさにお前に襲われそうになっていたのだろう? ブヒヒッ、持ち帰る前にここで味見をさせてもらうブヒよ。と言わんばかりだったであろうがッ!」 「どうしてそうなるんですか⁉ 違いますよ」  こいつ……まだ認めないのか、往生際の悪い。  エロで頭がいっぱいの奴は知能が低下し本能で動くから自分が何を言ってるのか、何をしているのか理解できないのであろうな、許しがたい奴だ。  私の尋問に否定を繰り返し話が一向に進まず平行線を辿っていたがここでルナが口を開いた。 「いえ、この方は本当に悪いことをしておりません、村にいた時からずっと私の事を心配をして下さってました。」 「何を言っているんだ、心配しているのは自分のことに決まっているだろうが、この体は俺だけの物ブヒよ。と思っていたに違いな――」 「あんたちょっと黙りなさい。」  メコッ! とセラの鉄拳が私の顔面を容赦なく捉えた。痛い、顔の中心が潰れる様にめり込み、目は薄っすらとしか見えず口も開かずコヒューコヒューと呼吸するのが精一杯。 「「ひえっ」」と驚く声が聞こえる。  一体どんな顔になってしまっているのか想像できなかった、っていうか麗しき女子の顔を殴るか普通……しかも潰れる程の力で……。  そして何事も無かったかのように話を進めるバイオレンス僧侶。 「でも会った時あなたフラフラだったわよ、疲労もあったし今にも倒れそうだったわ」 「はい……、まぁそれには訳がありまして……とりあえずこのオークの方は無害であることは確かなんです」 「ふうん、じゃあとりあえず村まで一緒に来て説明してくれる? こっちも何があったか報告しないと駄目だから……。」 「うぅ……、分かりましたとりあえず村の様子を見て貰ってから説明します、その方が早いと思いますので……」  俯きバツの悪そうな顔をするルナと渋い顔をするハイオーク。困惑。2人の表情からはそのような物が見て取れた。 「そういやさっき殺されかけたんだからあんたも何発かこいつを殴ってもいいわよ?」  ドキッ! いやそんなやられたからやり返すなんて……そんな考え方だからいつまで経っても平和な世の中が訪れないんじゃないか?  まぁ私としては一向に構わんが、むしろどんとこい。後セラさんちょっとドライすぎませんかね旧知の仲に対して……。 「いえ私は何も怒ってなどおりません、出てきたタイミングも良くなかったと反省をしている所存です」 「何で怒らないんだッ! ぶっ殺すぞッ!」 「ヒィイイッ! 何で怒ってるんですかこの人」  怯えるように顔の前に手を出す豚野郎。半殺しにされてどういうつもりだこいつ。  これは優しさとか紳士だとかではない、恐らくだが後々にあの時はよくも……と根に持つタイプ。弱みを見せた途端にドカンと爆発させる気なんだろう気を付けなければ……悩ましい。 「そういやアンタ名前は?」 「あっ、ベオウルフと申します。」  へぇかっこいいじゃない、名前だけは……。
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