ただの平民 / 第5話

第4話 実家の食堂

「ただいま」 「おう。お帰り、ユラ」  家に帰ると、親父がバイト戦士達と一緒に夜の仕込みをしていた。その傍らに、夕食のメニューも作っているので忙しそうだった。  見ての通り、俺の実家は平民の食堂【下町屋】の商いをしている。    親父が店主として率先して料理を作り、バイト戦士が接客を担当している。  親父はハゲ頭で顔に傷のある強面だが、客には優しい有名人だ。元冒険者だったらしい。俺より身長が高くて筋肉質だ。  バイト戦士達は親父を慕って入って来た元盗賊団。今は真面目に働いている立派なこの店の戦力だ。   「ユラ、お前も店を手伝え。今日は団体客の予約が入ってる」 「わかってるよ」  二階の自室にかばんを置いて、すぐに着替える。いつもの黒いエプロンで厨房にやってくると、さっそく夜の仕込みをやれと鶏の塊を渡された。  近所の肉屋から仕入れた鶏肉を豪快に切って特製ダレに漬け込む。ニンニクと醤油ベースの鶏のから揚げだ。この店の看板メニューの一つである。  それが終われば、八百屋から仕入れた野菜を切ったり、魚もさばいて仕上げは親父に丸投げ。俺は主にホール接客係なので。こんな見た目で接客なので、大体初見殺しに笑われるのがお約束。  客層は主に冒険者や兵士みたいな厳つい連中が多い。でも、たまに家族連れやカップルも来る。  嬉しい事に、食事や酒が評判だって言ってくれる一定数がそれなりにいる。おかげで潰れずに十数年やってこれた。 「|親父《ゲンジロー》殿、ご飯のお代わり」 「こっちは味噌汁のお代わり。たくさん食っておかないと朝まで持たないからな」 「やっぱこの店の飯はどれもうまいぜ。これから門番としての夜勤だからさー。スタミナつくわー」 「ホント、ここほど安くて美味い下町の食堂なんてこの店しかねーよな」  今の時間は兵士達が多い。これからの夜勤に備えて夕食を平らげている。夜になるとまた別の客層が酒をちびちび煽りにやってくる。週末ともなれば休日前だからと、荒くれた連中がどんちゃん騒ぎをしだすので大変だ。 「ユラ、学校どうだ~?貴族からいびられてないか」 「まあ、お前なら心配ないだろ。はっはっは」  常連客の二等兵スケさんとカクさんが声を掛けてきた。酒瓶片手に顔も赤くてもうかなり飲んでいる。 「心配ないってどういう意味ですか」 「お強そうだからって意味だよ。並の男じゃ敵わないだろうな」  たしかにこの見た目だから、進んで関わってくる奴なんて学校ではいない。  どいつもこいつも、口が達者なもやしみたいなヒョロガリ令息しかいないし、見下されて笑われるか、見た目にビビられるかのどちらかだ。 「で、好きな男はできたか?」 「……できると思います?」  この図体で。  好きになっても相手に迷惑だろ。罰ゲームだと思われちまう。 「はは、悪い悪い。だがしかし、この広い王都にも一定数ゲテモノ好きはいるから気にすんな」 「フォローになってないんですが」  この店にやってくる常連たちは、俺のデブスな見た目に笑いながらもマスコットキャラのように可愛がってくれる。人の容姿も三日で飽きるって言うもんね。  容姿至上主義《ルッキズム》なお貴族様に、爪のあかを煎じて飲ませてやりたい。 「お前の作った鶏のから揚げ、美味いって言ってくれているぞ」  厨房に戻ってくると、親父が強面の顔で微笑んでいた。 「親父が作った唐揚げの事じゃん」 「昨日のから揚げはお前が担当していただろ。認めろ」  親父の料理は美味い。親父のおかげでこの店が成り立っているのに、なぜか俺の作った料理をやたら褒める。我が子贔屓ってやつだろう。 「毎度親父は俺の飯を褒めるけど、大したことないって。親父の言いつけ通りに作ってるだけなのに」 「それだけじゃない。お前の料理はもちろん美味いのもあるんだが、不思議な力を感じるって誰もが言ってるぞ」 「またそれか。変なモン入れてないよ」 「それでもいい事だろ。お前の飯を食うと、いつもより力が湧いてくるというか、体調がよくなったり、肌の調子がよくなったり、記憶力があがったりとか、評判になってる」 「はあ……意味不」 「俺もようわからんからうまく伝えられん。だが、お前の作ったものは他よりなんとなく違うって事だ」  親父の言っている事がよくわからなかった。  不思議な力、か。まさか、聖なる魔力と関係あるのかな。  たしかに俺が作った料理に感想を言ってくる人が最近多い。全部お世辞だと思うんだけど。 「おいユラ。昨日のから揚げ食べたら腰痛が治ったんだ」 「俺は昨日、モンスターと戦ってたらいつも以上に力が湧いてきて、いつも苦戦していた特大大ネズミを瞬殺できたんだ。その前も大ゴキ相手なのに、一撃で倒せてびっくりだぜ」 「俺も似たような事あったー。ユラ、お前料理屋より薬師の方が向いてるんじゃないか」 「そりゃ気のせいってやつです。薬師になれるほど頭よくないんでね」  とりあえず、新しい客が入ってくるまで皿洗いに徹しようと食器を片付けていると、からんからんと扉の鈴が鳴った。  いつもの音のはずなのに、なぜか店の空気が止まる。ざわついていた声が、わずかに途切れる。誰もが、無意識に入口を見る。  皿を拭きながら顔を上げると、見慣れない気配が店に流れ込んできた。  入ってきたのは、金髪の美青年と、金髪の美少女。  は………?  あれって――――王太子殿下とハヤミ公爵令嬢!?

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