ただの平民 / 第6話

第5話 ハヤミとヤマト

 なんで高位貴族と王族がこんな平民街の店に来てんの!?  唖然とした俺は、とりあえず厨房の奥に引っ込む。隠れる必要はないのだが、なんとなく隠れてしまった。  もしかして、何か至らない部分があったのだろうか。    昼間のあの視線だ。ヤマト殿下の、あのやけに鋭い目を思い出す。  俺、やらかした?何かやっちゃった?死亡フラグ?  不敬罪かな。ひいいいい。ガクブル。殺されちまう。  それとも俺を王侯貴族権限でパシリにする気なのか?  オーマイガー!!NOOOOO!!  壁からこっそり見ると、二人とも平民用の服に着替えているが、隠しきれていない。顔がいいとかそういうレベルじゃない。格が違うというやつだ。  ヤマト殿下は静かに店内を見渡し、ハヤミ嬢は少しだけ緊張した様子で背筋を伸ばしていた。  そんなに気張らなくていいですよ。ここ、酔っ払いが騒ぐ店なんで。 「こんにちは。ユラ・ハナゾノさんの家……というかお店はここで間違いないですか~?」  ハヤミ嬢がにこやかに親父に声をかける。  軽いノリな話し方で驚いた。あれ、公爵令嬢だったよね?昼間とは全然違う。  貴族の令嬢ってもっとこう、堅苦しいもんだと思ってた。 「そうですが……娘になにか用ですか」 「今日、学校でお世話になったので、そのお礼に来たんです。あ、私はハヤミと申します。同じ学校の。隣は不愛想だけど付き添いのヤマトです」 「どーも……こいつの付き添いだ」  不愛想だな王子。にこりともしない所が評判通りだ。 「ユラは厨房の奥にいる。席にどうぞ」  親父はまったく動じない。さすが元王と知り合いなだけある。  壁際の席に案内される二人は座る。 「ユラ。来い。お前に用だ」 「うぅ……お礼とか別にいらないのに……」  貴族と関わるとか面倒の塊だろ。  ただでさえこの外見で苦労してんのに。 「まったく、お前は自信がなさすぎる。お前のおかげで助かったと言ってお礼に来てくれたんだ。堂々としてこい。そして照れてこい」 「照れてこいって、どんな指令だよぉ」  渋々、二人の前へ出ていく事にした。  ハヤミ嬢がぱっと顔を明るくする。 「こんにちは!えっと、いきなりごめんなさい。急に来ちゃって」  そのまま少しだけ距離を詰めてくる。 「どうしても、気になっちゃって」  ……あの、近いんですが。 「その……家の場所、調べちゃった♡」  てへ、と舌を出す。 「いやいやいや、普通に怖いんですが」  思わず本音が出た。だって知らないうちに家を調べられてるんだもの。警戒するでしょ。 「でもね、本当に嬉しかったんだ。今まで、ああやって助けてくれる人なんて……ヤマトくらいしかいなかったから」  ちらっと横を見る。ヤマト殿下は何も言わない。  ただ、こちらを見ている。じーっと。  この人、まばたき、してるよな?  してるよな……?してないかも……。 「………」 「………」  あの、なんでジッと見てくるんですか。しかも無言で。  俺なんて見ても面白くないでしょ。それともなんちゅうでかい図体してんだこいつwとでも思っているのだろうか。人を観察するのが趣味な人?  そうしてこっち見んなアピールをしているのだが、一向に視線が離れない。  視線が痛いんですけど。いつまで見つめられるの俺。  なんか言いたいことがあるなら言えよ。居たたまれねぇっつうの。 「だからユラ様はぁ、あたしの白馬の王子様です」 「……はい?はくば……?」  どこをどう見たらそうなる。眼科行った方がいいですよキミ。 「いやいやいや、ないないない」 「あります♡」  いや、ねぇよ。と、心の中で突っ込み。 「様付けやめてください。身分的にそっちが上なんで」 「えー。でも王子様だし」  押しが強い子だ。あとその眼は節穴ですね。それともブサ専ってやつなのか。ただ助けただけなのに。俺じゃなくて、隣にもう本家本元の王子がいるでしょ。 「じゃあ、ハヤミって呼んで?」 「え?」 「そうしたら様やめる」  条件付きっすか。 「い、いきなり呼び捨てはちょっと……」 「ほら、呼んで♡」  そうしてこの上目遣い。  強い。色々押しが強いぞキミ。 「ハ、ハヤミ……さん」 「さんいらない」  即修正を促してくる。 「これ以上は無理です……!」  思わず後ずさる。彼女は少し考えて、 「じゃあ今はそれでいいや」  にこっと笑った。 「でも、いつか呼び捨てね?」  未来確定してるの怖いんですが。 「ユラ」  いきなり名前を呼ばれてびくっとしてしまう。  その顔で名前呼びはちと心臓に悪い。だってクソイケメンだし、王太子だし。  あといつまで俺の事見てくる気っすか。いい加減目を逸らしてちょーよ。 「お前……あれは、計算か?」 「はい?」  意味がわからない。 「ザァコを止めた時だ。なぜそうした」  何言ってんだこの人。そんなの…… 「……別に、ただ見てられなかっただけです」 「そうか」  それだけ言って、ほんのわずかに口元が動いた。  あれ、笑った?いや、気のせいか。どっちでもいいけど。 「面白いな」 「はい?」 「いや、なんでもない」  興味を持たれた。理由はわからない。  少女漫画によくあるオモレー女を見つけたみたいな反応か。  やめてくださいよ。デブスに変な興味持つのは。ボンボンに興味持たれても迷惑なんで。  でも、なんとなく嫌な予感がした。  あの視線。簡単に終わる気がしない。俺の受難は続くかも。

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