かぴ / 第1話

出会い

  瞬間、世界が青に包まれる。  大小さまざまな球体が鈍く青い光りを放ちながらいくつも宙に浮かび、足元からは大人の背丈ほどもある花が男を中心に乱れ咲く。  風が下に上に吹き荒れ、飛んだ花弁が青の世界に影を落とす。男を中心に広がる世界はなんとも幻想的に暴力的で……。    座り込んだままのハンスは目の前の光景を直感的に理解した。常識の世界が瓦解し、目の前の男によって異常が——    ——否、「〇〇〇」が広がっているのだと。 ​───────​───────​──────── 西に傾き始めた太陽が家々の屋根を淡い朱色に染める頃、リーグレット村の人々は仕事を切りあげ家路につく。  辺境の小さな村ではあるが、領主の住む城が近いため、城町に卸す野菜を作っている農民が多い。新鮮な野菜は高値で売買されるため他の農村に比べ裕福な家庭が多く、家々が煉瓦作りなのもそのためだろう。  街ゆく人々の土に汚れた袖や額からは一日の労働を感じさせるが、帰路を辿る男たちの足取りは風体とは裏腹に軽く、中には鼻歌混じりに歩く者もいる。今日は行商人の荷馬車が来る日であった故、央都の酒でも買ってあるのだろうか。  村の中心は市場になっており、家の軒下で干し肉やら酒やらを売っている小さな屋台が立ち並ぶ。昼間は女達であふれる市場であるが、この時間になると買い物客もまちまちで店を閉める屋台も少なくない。  そんな閑散としていく市場の中、一人の少年が不満気な表情を顔に貼り付けて、道のわきで木箱の上に座り込んでいる。  少年の手には火傷跡が浮かび、服の裾はちぎれていて、その様相は先刻地下牢から解放されたばかりの労働奴隷のようである。足りない上背と貧相な体付きがより一層、少年を下賎に見せる。  少年の前には少年の容姿とは対照に悲しいほどに白く美しいロウソクがこれまたきれいに並んでおり、横の銀貨が数枚入っただけの銭入れからは一日の売り上げを思わせる。    街ゆく人はまるで少年だけが見えていないかのように過ぎ去っていく。いや、見えているのに見えていないことにしているのだ。  農家で成り立つこの村では、他職業の身分はとことん低い。  少年はしびれを切らしたように立ち上がると、座っていた木箱をひっくり返し、その中にロウソクを詰め始める。  ややあって、少年はいかにも重たそうな木箱を胸の前で抱き、眉をひそめながらズンズンと不機嫌を隠さずに歩く。  通りゆく人が少年を避け、前に道が空くのがより一層少年の機嫌を悪くさせる。 「ようハンス、ロウソクは売れたか?」  後ろから声をかけられ目をやると、そこには薄いチェーンアーマーの上に肩と腰に鉄製のあてを付けた肉付きの良い男が立っていた。  腰に下げたブロードソードに左手を置き、ニヤニヤとバカにした顔を浮かべる男に、一抹の苛立ちを覚えるが少年にとっては声をかけてもらえること自体が嬉しい。  「ああ、おかげさまでこんなド田舎騎士様とちがって忙しい毎日を過ごせているよ。」  「はっはっはっ!お前も言うようなったじゃねえか!騎士なんてな、暇なぐらいが丁度いいんだよ。」  つまり暇である、という宣言なのだがここまで快活に言い切られてしまうと何か言いかえすのも野暮に感じる。  「今日の売り上げ当ててやろうか?眉間の寄り方と背の曲がり方、性格のひねくれ方から……こりゃ、せいぜい三本ってとこだな?」  くだらない軽口だが当ててきているのがちょっと面白い。いや、馬鹿にされてる故、腹は立つのだが。眉間がどうこうはともかく性格のひねくれとは何事だ。  なんだかんだこの男、ロルフとの付き合いは長い。おちゃらけたように見えて村の騎士隊長であるこの男は、もちろん剣の腕前は申し分なく、兄貴分のような頼りがいのある人柄から村の人々からの信頼も厚い。  人と話すのが苦手な(人の寄り付かない)ハンスにも昔からこうして声をかけてはロウソクを買っていく。  「まったく、昔からお前さんのロウソクは質が良すぎるんだよ。一晩灯し続けて半分にもならないってどうなってんだよ。ちょっとぐらい粗悪に作って日銭を稼ぎやがれってんだ。」  小馬鹿にするような表情から一転、ロルフのハンスを見る目には親が子を見るような温和な雰囲気が浮かぶ。  ハンスはどうしようもならないという顔で下を向く。職人気質の父親がそれを許さないと知っているからだ。  「こうして話したついでだ、今日も二本ほど頼むわ。」  「おいロルフ、昨日も買わなかったか?」  「ん?……いやぁ、夜になってもかわいいかわいい嫁さんが寝かせてくれなくってよ。」  ウインクしながら自慢げに話すロルフだが、売れてないハンスに気を使っているのだろう。それにロルフには首が座ったばかりの子供もいたはずだ。まったく、格好つけたがりである。  実際、ハンスのロウソクはあまりに長持ちするので村でも評判である(だから売れないのだが)。魔法のロウソク、なんて言われることもあるくらいだ。 「二十ロルだよ。」  ほいよ。と気の抜けた声と共に2枚の銀貨が飛んできて慌てて木箱で受け止める。 「ありがとよ。"魔法のロウソク"屋さん」  ロルフは木箱からロウソクを二本つまみとると、ヒラヒラと手を振りながら背を向けて帰っていった。結局、世話見のいい良い奴なのだ。  ロルフの後ろ姿を見届け、ハンスも少し軽くなった木箱と気持ちを胸に帰路に着く。  魔法――四百年前の大戦中に突如として現れたという、選ばれしものだけが扱える不条理をこえる特別な力。魔法の登場で傾きかけていた人族の情勢はひっくり返され、人族は大戦唯一の勝利種族となった。    とはいっても大戦ははるか昔のことで、大戦以降に目立った魔法の逸話もないため今では存在すらも怪しいものである。もっぱら現代では魔法なんて物は子供の寝かしつけに定番のおとぎ話の世界だ。  本当に魔法なんてものが使えたのなら、この田舎での退屈な日常も変わっていたのだろうか。ハンスが物思いに空を見ると、既に夕陽は直視できる程になっていた。    三季というものがある。気温が高く、日が長いため作物がよく育つ熱季。凍える程寒く、雨の降らない冷季。二つの季節の間にある間季は気温も湿度もほどよく過ごしやすく、あらゆる自然がのどかである。間季は一年の間でも合わせて二週間ほどしかなく、その間は日々の仕事を忘れ、村総出で間豊祭という豊穣を祈るお祭りを行う。間豊祭の最終日には皆で次季の作付けを行うのが通例だ。なんとも田舎の農村らしい慣習である。  ハンスは畑を北南に|分《わ》かつ、東に一直線に続く道を歩いていた。村を囲むようにして作られた畑には先日の祭りでまいた種から小さな新芽が芽吹き始めている。畑は丁寧に管理されており、周りを囲む柵の元にすら雑草一つない。  リーグレッド村は村中央に円状にレンガ造りの家々が並び、住宅街を四分割するように大きな通りが通っている。住宅街を囲むように畑が広がっており、これもまた村同様四分割されている。  一区画は馬の放牧地になっており、二年ごとに時計回りに植える作物を入れ替えることで土地を痩せさせないという、村一つが城町への野菜で成り立っているがための、収穫を安定させるための昔からの知恵であった。  自分の前を行く暗い影を見ると自分の影にすら負けているように思う。自分も整然と立ち並ぶ芽のひとつであればよかったのに。目立たなくていい、普通でいいのだ。他と変わらず当たり前の日々をおくれたら。そんなことばかりが頭によぎる。考えまいともはや走っているかのような早足で歩いた。    道の先にぽつりと小さな古い家がある。村のレンガ造りの家々とは違い、木造で建てられたその家からは居住者の裕福とはとても言えない生活環境が見て取れる。家を支える支柱は風化により黒く変色し、キシキシと不気味な音を立て、窓はホコリで汚れ、そこらじゅうに蜘蛛の巣が貼っている。それがハンスの家であった。  村を出てから四半刻も歩かないうちに家に着いたがその頃には既に外は暗くなっていて、村の方を見ると窓からの明るい光が離れていても眩しく見えた。  キリキリと音を立てる古びた扉をあけると、家の中にはロウを型に流し込んでいる父の姿があった。父はハンスの気配を長年のロウソクづくりでまがった背中越しに感じるとこちらを振り向かえってにこりとほほ笑んだ。 「おかえりハンス、飯にするか。」  夕食はパンとスープだけの簡素なものだったが、1日の労働で疲れた体にはスープの塩味がよく染みた。しかし、育ち盛りのハンスにとってそれは十分と言える量ではなく、二人で使うには大きすぎるテーブルの上に並ぶ品数の少ない夕食と、燭台の明かりに揺らぐ二人の影がハンスには嫌で嫌で仕方がなかった。  どうして野菜を作っているだけで偉いのだろう、なぜ自分はこんなにも貧乏なのだろう。一体、何が違うというのだろうか。この村の当たり前はハンスには到底受け入れられなかった。  「父さん、ロウの質を下げてもっと本数を売れるようにしよう。じゃないと……」  食べ終わる頃合いを見計らって、ハンスは静かに切り出した。  「ダメだ。何度も言っているが品質に妥協はしない。」  しかし、父はハンスの言葉を遮るように言った。ハンスにも火が入った。  「理想を語っている余裕は無いんだよ!明日、どうやってパンを食べるつもりなんだ!そんな段階とっくに過ぎてるんだよ!」  「何を言われても品質は下げない。今も品質が保証されているから買ってくれるお客さんがいるんだ。」  机をたたきつけながら声を荒らげるハンスに、父は依然として静かに淡々と返した。  平行線だ。今までも声を荒らげようと、現実を突きつけようと、どんな手を使っても父はこの話に首を縦に振ることは絶対に無かった。    ハンスには拳を固く握りしめ、俯きながら押し黙ることしかできなかった。このままではいけない、焦りだけが日々増えていく唯一のものであった。  母が生きていた時はこんなふうではなかった。今と同じように貧乏であっても心までは貧しくなかったし、喧嘩話も必ず母が仲裁に入ってくれていた。いつも笑顔でコロコロと笑っていた母は人当たりもよく、母がロウソクを売りに出るとよく売れた。あの時は、まだもう少しお金も心も余裕があって毎日の生活にも笑顔があった。  本当は優しい父なのは分かっている。職人気質で難しいところはあるものの腕は確かで尊敬できる父なのも分かっている。母のようにロウソクを売れない自分も、自分に足りないところがあるのも、それも全部分かっている。分かってはいるのだ。しかし、五年前に母が流行病で倒れた時から、父とハンスの距離感は当人達にも分からなくなってしまっていた。 「……明日のロウを取ってくる。」  ハンスは顔を上げずに言うと、席を立って裏戸口へ向かった。扉の横に置いてある取っ手付きの木桶に雑に縄を投げ込んで、懐中燭台にロウソクを一本差し込んだ。扉の握りに手をかけたところ、 「…すまないな。」  父がぼそりと言った。力弱い声は背中に強くのしかかって、ハンスは何も言わずに飛び出すように家を出た。 ───────​───────​────────  家の東側は深い森が広がっている。立ち並ぶ木々一本一本はそこまで大きくないが、根はうねりながら地上に飛び出し所狭しと地面を覆い尽くす。  熱季といえど吹き抜ける夜風は少し肌寒く、葉が擦れ合う音はまるで暗い森全体が自分を嘲笑うかのようで、ハンスはキッと森を睨みつけた。その時だった。  ――|目《・》|が《・》|合《・》|っ《・》|た《・》のだ。  森に入って十歩と歩いた所、木と木の間に隠れるようにこちらをじっと見つめる存在があった。急いで目を逸らして下を向いた。見てはいけないものを見たという直感だった。身体中の毛穴がいっせいに開く感覚。ゆっくりと視線だけ横にやると、既に|そ《・》|れ《・》は木の影から踏み出し、森の入口まで出た所に立っていた。  そこにいたのは灰色のマントをはおり、フードで顔を隠した大柄な男だった。背丈はロルフと同じくらいか、はたまたロルフよりも一回りほど大きいかもしれない。  暗闇にすっかり溶け込んでいるはずなのに、気づかないことはあり得ないというべきか、そこにいることを悟られないようにしているはずなのに、そこにいないと思うことがまるで|異《・》|常《・》であるかのような気持ちの悪い存在感があった。  フードを深く被っているせいでこちらから顔を見ることはできないが、確実に見られているという感覚。視線の針が肌を突き、身体中に痒さが走る。無意識に体がこわばり、背中を汗が伝う。唾を飲み込むことすらうるさく感じる程の静寂。裏腹にどんどんとうるさく、速くなる拍動。誰が何のためにどうして静観しているのか。  ――未知、無理解、すなわち恐怖。  恐怖を自覚した途端、全身を身震いするほどの寒気が襲った。今すぐにでも逃げ出したい。しかし、足が動かない。そうすることは悪手だと本能が理解してしまっている。 「二つ、尋ねたい。」  静寂を破ったのは男の一言だった。少ししゃがれた、しかし鋭い声。中年、またもすると初老ぐらいかもしれない。  「一つ、この村に宿屋のような休めるところはあるだろうか?」  発せられる言葉は丁寧で柔らかいはずなのに、警戒が解けない。視線を外せない。  「二つ、この村に|異《・》|常《・》は、あるだろうか?」  異常の部分をやけに強調して男はゆっくりと言った。  質問、特に二つ目についてはなんのことだか理解できなかったが、ハンスは恐る恐る顔を上げて答えた。  「あ、あいにくこの村には宿屋はない。今晩の寝床をお探しなら後ろの森に帰るか、村の入り口にある関所に行くといい。事情を話せば、一晩ぐらい面倒を見てくれるかもしれない。」  緊張で舌が絡まる。何か失言をしたら殺されてしまうのではないか、そんな恐怖が常に体中にまとわりつく。  「それと、生まれてこの方15年この村に住んでいるが、異常については意味が分からない。」  「そうか、情報感謝する。」  男は少し困ったように目を伏せ(実際に顔が見えるわけではないためそう感じるだけだが)、右手で下あごを撫でている。今までのような威圧感が少し和らぎ筋肉が弛緩する。ふうっと一息をついた直後、男がこちらをジロっと睨んだ。  「手の火傷跡にわずかに甘いロウの香り、見たところロウソク職人のようだが、もう日も落ちたというのにこんな時間から何をしに行く?」  疑われている。鋭い眼光が再び襲い、一度閉じた毛穴がもう一度開く。  普通なら家で寝る準備でもしてる時間だろう。何かと大きい木桶を持って、まさにいま出かけんとするハンスの様相は異常を探しているという男からは疑わしく見える。  「明日のためにロウを取りに行くんだ。」  ハンスには焦ることも隠すこともない。分かってはいるが声は上擦っていた。  「……私も同行させてもらえないだろうか?」  もちろん何もしない、と男は笑ってない目ではにかみながら言った。笑顔とはこういうものだ、と本にでも書いてあったかのような偽物の笑顔だった。不信感を募らせながらもハンスは同行を了承するしかなかった。  二人は一言も話すこともなく森を歩いた。片手に燭台を持ったハンスが森の中を照らしながら先頭を進み、その二歩後ろに男がつづいた。ハンスにとっては明かりなどなくても歩けるほど歩きなれた道であるはずだが、後ろからの視線と威圧感が調子を狂わせ、いつもよりもかなりの時間を要した。  ハンスの目的地は森に入ってすぐの小さな井戸だった。井戸周りは大の男が四人ほど手を広げながら寝れるほどの空間があり、木々が立ち並ぶ森の中では少し浮いていた。井戸自体も簡素なもので石で作られた円形の井戸枠に滑車と縄を固定するための木柱、井戸口に雑に乗せられた木の蓋からはそれなりの年季を感じる。  ハンスは井戸口の端に燭台を置くと、持ってきた桶を縄に結び付け、なんとも慣れた手つきで井戸から汲み始めた。暗い森の中でロウソクのかぼそい明りが周辺を静かに照らす。森の中は静かで滑車と縄が擦れる音だけが聞こえ、ハンスが桶を井戸に落とすと一瞬縄が張るも一秒としないうちに、ぽちゃん、という音と共に縄が緩んだ。井戸はそこまで深くないようだ。  ハンスが桶をくみ上げると今まで木にもたれて傍観していた男が|震《・》|え《・》|た《・》|声《・》で問いかけた。  「何を、しているんだ……?」  「な、何って、ロウを汲んでんだよ。ロウを取りに行くって言ってなかったか?」  さも当たり前であるかのように、むしろ当然の質問をする男をいぶかしむような顔でハンスは答える。  男はあまりの光景に息を飲み、わなわなと震える指先からは男の動揺が見て取れた。ハンスの手元には|ロ《・》|ウ《・》|が《・》|な《・》|み《・》|な《・》|み《・》|と《・》|満《・》|た《・》|さ《・》|れ《・》|た《・》|木《・》|の《・》|桶《・》がロウソクの明かりに照らされて純白に輝いていた。  「な、なんだよ?じいちゃんも親父も、うちは代々こうしてきたし、何もおかしいことはしてないだろ!」  男はぐっとうつむくとなにか考えていた。顎に手を当てて、膝は貧乏ゆすりに揺れている。ハンスは男が何を考えているか分からないと怯えているようで、流れる長い沈黙がいっそうハンスを困惑させる。  「ロウの魔法……。」  ピタリと動きを止めた男が確かめるようにぽつりとつぶやいた。その言葉は発したというよりも漏れ出たようで、男の言葉を聞いたハンスはさらに困惑を深める。  「いやいや、魔法って四百年前の大戦で使われたっていうおとぎ話の中の力だろ?うちは普通のロウソク屋だし、さっきも言ったけどずっとこうしてきたんだって!」  今度は男がキョトンとした顔をした。すると、男の体が小刻みに震え始め、  「は、はは……っ、あはははははははははは!!」  訴えるハンスに男は堪えきれないというように高らかに笑い始めた。しかし、その笑い声はどこか自虐的な悲壮を孕んでいて、異質さと後悔を同時に感じさせる。男は笑いながら天を仰ぎ、被っていたフードは重力に則り男の顔があらわになった。少し面長の顔立ちにキレのある奥目、痩せこけた頬に、髪も伸びた髭もところどころ色が抜けている。男は興奮が抑えられないのか両の手を大に広げ、声高らかに言い放った。  「四百年、私が投獄されている間に世界は変わってしまったというのか!あの日、|私《・》|が《・》|生《・》|み《・》|出《・》|し《・》|て《・》|し《・》|ま《・》|っ《・》|た《・》|魔《・》|法《・》は長い時間を経て風化し、日常に溶け込んだ!そして|異《・》|常《・》は|常《・》|識《・》になってしまった!!どれだけ探しても見つからない訳だ、なぜなら異常者にその自覚がないのだから!!」  異常?魔法?ハンスにはなんのことかさっぱりだった。  「本来、ロウというのは樹脂や獣の油から作るものだ、井戸から汲むなど聞いたこともない!!あぁ、ああなんて愚かなことだ。私はこの世界を、この世界の住人を!狂わせてしまった!!」  男はえらく仰々しく芝居がかかった口調で、背を剃りながらまくしたてるように言い放つと、広げた手はそのままに顎からゆっくりとこちらを見おろし、優しい口調で続ける。  「少年よ、怖い思いをさせたな。だがもう大丈夫だ。私がこの世界を取り戻そう…いや……、」  男が言い淀むとひと吹きの風が二人の間を走り抜け、灯火が消えた。突如として暗闇が訪れる。ロウソクの残煙が四散し、一瞬の暗闇、一瞬の沈黙。  ——瞬間、世界が青に包まれる。大小さまざまな球体が鈍く青い光りを放ちながらいくつも宙に浮かび、足元からは大人の背丈ほどもある花が男を中心に乱れ咲く。男の眼球には同心円状の模様が浮かび眼差しは黄色い残光を残す。風が下に上に吹き荒れ、飛んだ花弁が青の世界に影を落とす。男を中心に広がる世界はなんとも幻想的に暴力的で……。  座り込んだままのハンスは目の前の光景を直感的に理解した。常識の世界が瓦解し、目の前の男によって異常が——  ——否、|魔《・》|法《・》が広がっているのだと。    「——私がこの世界を是正する。」    男は確かな意志を宿した目で、静かに言い放った。
お読み頂きありがとうございます! まえがきもあとがきも楽ですね!かきっぱすごい!! 初の長編になります!書くのはおっそいですが気ままに待っていただけたら🙇‍♀️ 謎多きところで終わりましたがこの男は一体何者なんじゃ!?:( ;꒪″⌳꒪″): ワナワナ 評価・感想励みになります!じゃねばい!(じゃあねばいばいの略)

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