蒼井瑠水 / 第12話

終わりへとひた走る君に。

「いやはや、申し訳ないです。センパイ」  救急車で運ばれた彼は緊急入院になった。検査も合わせて経過観察で、安静になった今、面会ができている。 「心配したんだよ! そんな軽いノリにしないで!」  頭の裏をわしわし掻いていたケイくんは手を止め、ベッドから起き上がった膝元に置いた。 「……」  なぜ、そんな顔してるの? なぜそんな、 「安心した顔、しないでよ……」  悲痛な、消え入るような声で呟き、自然に涙が出る。  頬を伝う熱いそれ。次第に涼しくなる。そう感じたら、彼は口を開けた。 「ありがとう、センパイ」  何……それ。何……それ。  彼は嬉しそうに優しく笑っていて。  そんな顔がむかついて。  つい、言おうと思っていなかったのに口走った。 「ケイくん……!? 死なないよね!? ……死なないよね!?」  でも思ってた言葉ではなく、勝手に求めてる言葉ではなく。  彼の口からは、 「そう、オレは死にます」    彼の言葉が落ちた瞬間、病室の音が遠のいた。    廊下から聞こえる看護師の足音も、点滴の機械が刻む一定の音も、全部が水の底に沈んでいくように遠ざかって。    残ったのは、ケイくんの膝の上に置かれた手だけだった。    私はそれを見てしまった。    彼の手が、ほんの少しだけ、震えていた。    右手の指先が、膝の水色の病院服をごくわずかに掴んで。それはすぐに緩んで、またへらへらした笑顔の下に隠れた。    一瞬だけ、彼の笑顔が笑顔でなくなった気がした。  でも私は、それを確かめる言葉を持てなかった。    それからは彼を問い詰めた。  冗談だよね、じゃあなぜ死ぬの、って。  彼ははぐらかすばかりでただへらへらしてて。  ふざけんな。お前は死ぬんだぞ。  ひたすら腹が立って。  彼の肩を掴んで、少し乱暴にしても「センパイ、どうしたんすか? 変ですよ?」と相手にもしてくれなくて。  気づけば面会時間が終わり、帰るしかなかった。  帰りの夕暮れは、どこか心に穴が空いていた。  セミが鳴いている。  一週間しか生きられないのに、わざわざうるさく鳴いて。最後はころっと人知れず死ぬ。  セミファイナルなるものを起こすものもいるけれど、どこでも騒がしくするそいつらには、今はなぜか可哀想に見えた。  死にたくないと泣いてるようで。  まだ生きたいと助けを呼んでるようで。  彼にもそうしてほしかった。  あの子は死にたいのかもしれない。死にたくないのかもしれない。  分からないけど、でもそこらの木で泣いているあの人達に彼を、重ねてしまった。

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