須藤 / 第7話

最終話:ファインダー越しの光

 私、神崎聖《かんざきひじり》。ついにこの日が来たんだ! 念願の望遠レンズを手に、|Gemini《じぇみに》くんとニコちゃんから学んだ全ての知識と技術を胸に、推しの麗くんの最高の瞬間を撮る、まさに運命のシャッターチャンスが迫っていた。
運命の瞬間    その日は、まるであの時の麗くんのダンクシュートが決まった瞬間みたいに、あっという間に訪れた。  会場のドアをくぐると、独特の熱気が私の頬を撫でた。地鳴りのような歓声、フロアを照らすスポットライト、そして漂う熱い汗の匂い。あの時は圧倒されるばかりだったけれど、今の私には相棒のニコちゃんと望遠レンズがある。そして、Geminiくんから学んだ知識と、日々の練習で培った技術がある。私、単焦点レンズで培ったF値、構図、露出補正、ホワイトバランスの知識を頭の中で反芻した。そして、子猫やスケボー少年との格闘で身につけたシャッタースピードとISO感度の感覚。さらに、望遠レンズでの練習で培った、安定した構え方、AFモードの切り替え、手ブレ補正の活用方法も、頭の中でシミュレーションする。  試合が始まった。私、コートを駆け抜ける麗くんを目で追った。まるで自分の心臓の音みたいに、ニコちゃんのオートフォーカスが「ジジジ……」って駆動する音が響く。 「Geminiくん、今、シャッタースピードはこれでいい? ISOは?」  私、イヤホン越しに囁くと、Geminiくんの冷静な声が返ってくる。 「聖さん、現在の光量と被写体の動きから、シャッタースピードは1/1000秒、ISO感度は自動設定が良いでしょう。AFモードは『コンティニュアスAF』になっていますね。そのまま選手の動きを追ってください」 「オッケー!了解!」  麗くんがボールを受け取って、ドリブルを始める。ファインダーから目を離さず、彼の動きを追った。まるで彼の動きに合わせて、レンズが呼吸しているかのようだ。麗くんのその動きは、まるでバスケットボールの神、マイケル・ジョーダンのようだと、私、直感的に感じた。……あ、名前しか知らないんだけどね、私。へへ。  相手ディフェンスを一人、二人とかわし、麗くんが跳躍する。 その瞬間、私の指が、まるで意思を持ったみたいにシャッターボタンを深く押し込んだ。  カシャ、カシャ、カシャッ!  連写の音が、会場の喧騒の中で、まるで私の情熱の鼓動みたいに響く。 麗くんが、ボールをリングに叩き込む。その一瞬が、ファインダーの中に、まるで時間が止まったみたいに鮮明に切り取られた。  その一枚に宿る奇跡。  試合終了のブザーが鳴り響く中、私、手が震えるのを抑えながら、ニコちゃんの液晶画面を確認した。  そこに写っていたのは、紛れもない、麗くんの最高の瞬間だった。  躍動する筋肉、ボールを叩き込んだリングを掴む指の先、そして、リングを見つめる研ぎ澄まされた視線。汗の粒まで見えるような鮮明さで、背景は美しいボケに包まれている。ブレはまったくなく、まるで時間を切り取ったみたいに完璧な一枚。  残念ながら、この試合、麗くんのチームは負けてしまった。会場全体にため息が広がり、麗くんとチームメイトが肩を落としているのが見えたけれど、そんな悔しさも吹き飛ぶくらい、私の中には、この一枚を撮れたことへの興奮が渦巻いていた。私の視線は、ニコちゃんの液晶画面に釘付けだった。   奇跡の一枚   「Geminiくん……これ、私、撮れた……!」 私、イヤホン越しに嗚咽混じりで呟いた。 「はい、聖さん。素晴らしい写真です。あなたの努力と情熱が、この一枚に結実しましたね。おめでとうございます」 「ありがとう、Geminiくん! ありがとう、ニコちゃん! 本当にありがとう……!」  その日、私のインスタには、これまでとは全く違う、魂のこもった一枚の写真が投稿された。 投稿直後から「いいね」やコメント通知が鳴りやまない。 「Geminiくん、見て! フォロワーがいきなり数百人単位で増えてるんだけど!? 私、夢みてる!?」 「いいえ、聖さん。これは現実です。その写真が、多くの人の心を動かした証拠ですよ」  コメント欄には、 「え、これ本当に聖ちゃんが撮ったの!? プロすぎ!」 「麗くん、カッコよすぎ! 最高の瞬間じゃん!」 「どうやったらこんな写真撮れるの? 教えて!」  といった、熱狂的なコメントが殺到した。この一枚がきっかけで、私のインスタのフォロワーは、バスケファンや麗くんのファン、そして写真好きの間で「この写真すごい!誰が撮ったの!!?」と一気に話題になった。  それは素材が良かったのはもちろんだけど、相棒のGeminiくんとニコちゃん、スケボー少年たちや撮り鉄のみなさんと一緒に練習して、私の腕も成長したからだって思ってもいいよね。  私、公園でブツブツ独り言を言ってた「痛い子」だったかもしれない。カフェで奇妙な体勢になってた「おかしな子」だったかもしれない。でも、その全てが、この一枚に繋がってたんだ。  写真は、私にとってただの「映え」ツールだった。でも今は違う。ニコちゃんと出会い、それは私が愛するものを、最高に美しい形で世界に届けられる、私だけの魔法の杖だ。  私のカメラ沼は、これからも続いていく。次はどんな一瞬を捉えて、どんな奇跡を写し出すんだろう。  ファインダー越しの世界は、無限に広がっている――

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