むかいぬこ / 第55話

第33話 この気持ちの正体

お風呂から上がり、髪を乾かし終えた紬は、机の上のスマートフォンを手に取ってベッドへ潜り込んだ。 薄暗い部屋の中で、液晶の明かりだけが白いシーツを照らしている。 どうしよう? もうずいぶん遅い時間だ。寝ているかもしれないと思ったが、結局、トーク画面を開き、ぽつりぽつりと文字を打ち始めた。 《しーちゃん、もう寝た?》 壁の横から様子を伺ううさぎのスタンプと一緒にメッセージを送る。 少し間をおいて、画面の向こうから返信が届いた。 『起きてるよ、珍しいね、こんな遅い時間に』 《ホント、ごめん》 《最近、バタバタしてたし、しーちゃんとメッセしてなかったから》 『大丈夫だよ、何かあった?』 《大したことじゃないんだけど、わたしって癖字だよね?》 またも少し間をおいて、画面の向こうから返信が届く。 『まあ、たしかにミミズが這ったような字だね』 遠慮のない言い回しに少しむっとするが続ける。 《わたしって、何も特技がない》 一度送信ボタンを押してから、続けざまに指を動かす。 《神崎さんは聡明で抜群のリーダシップがあって》 《橘さんは周りが良く見えて、気配りもできる》 《森さんは、とても字が上手なの》 一瞬、指が止まる。 《瀬尾くんはパソコンの操作が得意だし、なんだか難しそうなWなんとか?みたいなのも知ってる》 返信の間隔が遅い。数秒後、短い返信が届いた。 『……それで?』 そこからは手が止まらなかった。 《今日、メニューの手書きを作成したの》 《でも、わたしの字じゃ申し訳なくて、森さんにお願いしたんだ》 《そしたら、瀬尾くんと森さんが、頬っぺたがくっつくんじゃないかって距離で、楽しそうに話してて》 次を打つか、指先を画面の上で迷わせる。 打っては消し、息を呑んでは、また一文字ずつ打ち直す。 そして…… 《なんか……ちょっと嫌だった》 いつの間にか唇を尖らせていたことに気づき、紬は慌てて口元を緩めた。 『何が?』 すぐに返ってきた短い問いかけに、紬は画面を見つめたまま息を詰まらせた。 《いや、わたしが嫌なんじゃなくて》 《瀬尾くん良い人だよ》 《でも、男子にあんなにくっつかれて》 《嫌じゃないのかな? って》 紬はスマートフォンの角をぎゅっと握りしめる。 『でも、その子は嫌そうだったの?』 《それは!》 次のメッセージが打てない。何を聞いて欲しいのか頭の中が整理できず、もういいやと思ってしまう。 《ごめん》 《毎日忙しくて、変になってるかもしれない》 《しーちゃん、寝て》 《わたしも寝るから》 『つむ、ごめんね』 《え?》 『おやすみ』 紬はしばらく、その三文字を見つめていた。 やがて画面がゆっくりと暗くなる。 紬はスマートフォンを握ったまま、大きく息を吐いた。

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