むかいぬこ / 第43話

第21話 予期せぬ通知

金曜日の夜。明日の現地調査に備えて荷物の確認を終えた湊は、ベッドに腰掛けてスマートフォンの画面をタップした。 『湊、明日は東京に行くんだよね! 準備はもうバッチリ?』 アプリを起動すると、アイが両手を後ろに組んで首をかしげた。 「一応ね。神保町と吉祥寺あたりの古い喫茶店を三軒ずつまわる予定。バッテリーも充電した」 『ふふ、頼もしいね! 浅井くんたちと一緒なら賑やかになりそう』 「賑やかを通り越して騒がしくなりそうだけど……。でも、神崎さんが電車の乗り継ぎから予約まで全部タイムスケジュール組んでくれたから、迷うことはなさそうだよ」 『さすが神崎さん! あ、白石さんも一緒に行くんだよね?』 「う、うん。……白石さんも、……もちろん一緒だよ」 プレゼンでの紬を思い出す。 (……僕も、もっとしっかりしないとな) 自分もちゃんとチームの力になりたい。 そう思った、その時だった。 ピロン、と画面上部にメッセージの通知が落ちてきた。 表示された名前に、湊の指先がぴたりと止まった。 『高梨遥』 あの日――「彼氏ができた」というメッセージを受け取って以来、ほとんどやり取りをしていなかった名前だった。 心臓が不規則に跳ね上がるのを覚えながら、湊は躊躇いがちに通知を開いた。 《湊、久しぶり! 元気にしてる?》 遥の高校でも文化祭の準備に追われていることなど、他愛のない近況報告が続く。 あの頃と変わらない気軽な調子に返信を重ねるうち、湊はうっかり文字を打ち込んでしまった。 《明日はうちのクラスも文化祭の準備で、東京まで喫茶店の調査に行くんだ》 送信した直後、遥からの返信が届いた。 《えっ、ほんとに!? 私、明日空いてるんだよね。どこ?どこに調査に行くの?》 《ねえ、もし時間あったら、少しだけでも会えないかな?》 画面の文字を見つめたまま、湊は息を呑んだ。 明日はみんなでの現地調査だ。抜け出せるような状況じゃない。 けれど、「無理だ」と断る言葉がどうしても指先から出てこなかった。 《少しだけなら……抜けられるかもしれない》 送信した瞬間、胸の奥に小さな引っかかりが残った。 ――僕も、もっとしっかりしないとな。 ついさっき自分でそう思ったばかりなのに。 「……湊? どうしたの?」 画面の向こうから、心配そうなアイの声が聞こえた。 湊は顔を上げ、ベッドサイドに置いたスマートフォンを見つめた。 「……遥から、メッセージが来てさ」 『遥ちゃんから?』 「うん。明日、少しだけでいいから会えないかって。断りきれなくて、会う約束、しちゃったよ」 グループ行動を優先すべき理由、あるいは角を立てずに断る文面。 いつもなら、アイに聞けばすぐに最適な答えを教えてくれるはずだった。 「……僕、どうすればいいと思う?」 縋るように問いかけた湊に対し、画面の中のアイは、いつもの即答をしなかった。 穏やかな瞳で、湊をじっと見つめ返す。 『湊は、どうしたいの?』 「え……」 『アイが決めることじゃないよ。湊がどうしたいのか、自分で決めてほしいな』 湊は目を瞬かせた。 いつもなら、すぐに答えてくれるのに。 「……僕が?」 『うん』 アイは、それ以上何も言わなかった。

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