神成仁 / 第5話

03

「ムッシュー、私にもコーヒーをひとつ」 柏木は流暢に注文するとギャルソンは頷き、カウンター内へと入っていく。 コートも脱がず、そのまま私に向かい合うように椅子をまわす。 「いままでどこにいたわけ?」 「それはこちらの台詞です、 今まで何をされてたんです?」 「関係ないでしょ、」 ポツリと呟くと、小さなカップが運ばれてきた。 伝票をピシャリと置くとこちらを気にしながらもギャルソンはまたカウンターへ戻っていく。 「まぁ、よろしいですよ。 仰らずとも。」 そう話すと振り返り先ほどの男がテーブルに置いていった新聞を手に取る。 「風の噂ですが、ご活躍は予々。」 柏木は眉を顰めながら例の記事が書かれた一面を片手にそっとカップを口に運んだ。 「訴訟だとか。大変ですねぇ、お支払いになるんですか。」 少し小馬鹿にしたような口ぶりは変わらない。 「あんなバカに払うわけないでしょ、あんなのハッタリだって。」 「まぁそうですが。この記事だけでなくテレビやご自身のストリーミングでもかなりお怒りになってるとか。」 「ハムスターに大統領の名前つけるような馬鹿女よ、そのうちすぐに忘れるわよ。」 「それならいいのですが。」 はぁ、とため息をつくと何やら内ポケットを弄る。 「今日来たのは殿下にこのおバカなアメリカ令嬢のことでご進言差し上げるためではございません。」 - そりゃそうだ。 「これを、お渡ししようと遥々参上しました。」 そういうと柏木は小さなハガキのような紙を胸元から取り出し、私の前にそっと指で差し出した。 見慣れた印。 子供時代の記憶を呼び覚ます。 そこには祖父が身につけていた柿の花の紋が描かれているだけだ。 差し出された紙を受け取るも私はすぐにはそれが何を示すのか理解できなかった。 「殿下、今日来たのはとても重要な意味があるのです。」 「意味って?」 「明日、花宮へお戻りください。」 「…どういうことなの。」 「その紋はご存じですね。 お祖父様が、 春夏冬帝(あきなしてい)が、 - お隠れになったのです。」 (つづく)

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