神成仁 / 第14話

12

雌鶏の咆哮 EP.12 8月23日 14時。 記録的な大雨の中、大喪の儀が執り行われた。 世界中の王族が集まり、哀しみを分け合った。 我々のずっと後ろには何やら大きな塊になって入ってくる喪服の集団とその警護。 真ん中の男に何やら原稿のようなものを渡す若い長身の男と、左右には側近らしき人物。 その背後をひょこひょこと着いてくる明らかに着慣れないスーツ姿の高校生くらいの子供。何故葬儀に子供が? 「橘総理だよ、政和党の。」 菫人が小さく指差す。 「ああ、なるほど。」 「横にいるあの高校生みたいなのは?」 「息子さんだよ。僕大学の同級生だったんだ、話したことないけど。」 「マジで?高校生かと思った…」 総理と言われているあの人物は昔ニュースで見たことがある。 失言大臣の橘杏一朗だ。 あれだけ世間に叩かれたの今や一国の首相にまで上りつめたのだから、凄まじい生命力を感じる。 ならあれはおそらくあの一行は総理と来た官房長官と秘書、側近議員たちってところね。 何やら秘書にしかわからないのか、横一列団体になってどの席なのかを皆でキョロキョロと見渡している。 その中でも中心にいた少し色黒の大柄な総理と横付きの男、そして菫人の同窓生らしい息子がこちらに向かってくる。 「来たわ。相変わらず下品な男。」 菫人の横にいた叔母がまた嫌味ったらしく呟く。叔母が知っているということは… すかさず母は席を立ち、総理に向かって一礼する。 総理とその周りもそれ以上に頭を垂れる。 「野薔薇様、久方ぶりでございます。 この度は…」 「橘総理。本日はお足元の悪い中、ご参列いただき感謝します。」 「突然のご訃報に我々も日本国民として深い悲しみの念に堪えません。しかし宮さまも他の皆さまもここからが正念場でございますな。この後のこともございます故、」 さすが政治家、そうよね。早く次の跡継ぎが気になってしょうがないのだろう。 「全ては花宮院に委ねます。」 毅然とした態度で母は答えるも、さすがは一国の首相。 あの薔薇の女王の前で顔色ひとつ変えない。 それどころか物怖じもせず、 「我々も今後国会にてこの問題に早急に着手するでしょう。」とまで言い出す。 このタイミングでは時期尚早とも取れる発言をすると、 その流れで私の存在に気づき目を丸くした。 戻られたのですか、と母に小声で聞いた。 何故だろう、急に今まですっぱ抜かれた記事やらニュースやらが走馬灯のように頭を駆け巡った。 おそらく今この男も私と同じようになんと声をかけるべきか、過去の私をプレイバックしているに違いない。 その目は何故ここにいるのかと言いたげだが、そんなもの腐ってもこの家の親族だからに決まってる。 「いやはや、美々子様。お戻りとは存じ上げず、ご挨拶が遅れ大変申し訳ございません。」 「橘首相、お目にかかれて光栄です。」 「と、申しますのもおかしなことに、官邸にはご入国されたという報告がなく…」 ほほう。 このジジイ、下手に出るようで開口一番に極秘入国に対して釘を刺してきた。 縄張りを主張するボス猿のようだ。 当たり前だろう、花宮院が外務大臣から空港の責任者に至るまで先回りして口止めしたのだ。 でなきゃ私の帰路を辿られそのまま皇帝の崩御があっという間に世間に広まってしまう危険があった。 まぁ彼の言う事はごもっともだ。本来なら政府と連携を取るのが筋だ。 とはいえ花宮院は内閣府と対等にやりあえる唯一の機関だ。 勝手な動きをする厄介な組織と霞ヶ関の官僚どもの頭も悩ますほどの独断力を事実上持っている。 現職の総理でもコントロールできない悩みの種なのだろう。 「今朝到着しましたので。」 私は平然と嘘をついた。 「なるほど。長旅でお疲れにも関わらず正式なお迎えもできず申し訳ございません。 ちなみに私のことはご存知で?」 答えようとすると目の端で柏木の目つきが鋭くなったのが見えた。 余計なこと言うなよ、と。 どこかであったような気がして、私は場を繋ごうと急いで記憶を漁り、微かに残る彼に関する記憶を探した。これでも一度顔を見たら忘れないほうだ。 「ええと、以前マルタのホテルで奥様とお見かけしました。お元気ですか?」 とんでもなく空気が徐々に凍りついていくのを感じた。 父親の後ろで指のささくれを気にしていた息子とやらすら驚いたのか、 顔を上げてこちらを見ている。 「え?あ、あぁ。参りましたな。あれは私の個人的な付き合いのある友人でしてその…」 急に顔が引き攣る総理を見て私はすぐにその後の記憶をもう一度よく思い出した。 あれには続きがあったがそれはテレビの画面越しだったせいですっかり抜け落ちていた結末だった。 ”橘外相 束の間のバカンス、ヨーロッパリゾート地でモデル美女と密会か?” まずい、あれは愛人の方か。 目を伏せ静かに怒りのオーラを発する母。 あぁ、殺される…マジで。 「総理、そろそろ。」 横にいた男は秘書だったのだろう、いい具合で助け舟を出してくれた。 どことなくいけすかない感じが柏木に似ている。 「あぁ。では、皆様恐れながらこちらで失礼致します。改めて日本国内閣総理大臣として、謹んで心からのお悔やみを申し上げます。」 総理軍団が去っていくと我々も席へと促された。 つづく

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