芦名 雅 / 第11話

第11話 告白は、屋上より高く

どこかで、誰かの恋がはじまる 「好きだ! 付き合ってくれ!!」 昼休みの屋上、獅子座しし座アポロは、拡声器片手に叫んでいた。声は校舎中に響き渡り、下級生も上級生も、何事かと窓から顔を出す始末だった。 「アポロくん、その拡声器どこで手に入れたの……」 告白の対象である、隣のクラスの月見つきみ雫しずくは、頭を抱えながら聞いた。付き合いは長くないが、この男が突拍子もないことをする人種だというのは、既に骨身に染みて理解している。 「放送部の後輩に借りた! 俺の想いは、校舎の隅々まで届けねば意味がない!」 「意味の方向性がおかしいよ」 「愛とは、声量だ!」 「愛は声量じゃないと思う」 雫は真顔でツッコミを入れながらも、アポロの馬鹿げた熱量に、毎回どこか呆れつつも憎めない気持ちを抱いていた。 「そもそも、雫。俺が本気だということを証明するために、今から屋上の柵を――」 「登らないで! 危ないから!!」 慌てて阻止する雫。だが時すでに遅く、アポロは既に柵の縁に片足をかけていた。 「安心しろ、俺は元体操部だ! この程度、朝飯前……うおっ!?」 案の定、足を滑らせて盛大に転がり落ちるアポロ。幸い柵の内側だったため大事には至らなかったが、盛大に尻もちをついて悶絶していた。 「ばか! ほんとにばか!」 雫は駆け寄りながら、涙目で怒鳴った。心配と呆れが同時に押し寄せてきて、感情の整理が追いつかない。 「……悪い。格好つけようとして、逆に格好悪くなった」 「うん、めちゃくちゃ格好悪かった」 「それでも、俺の気持ちは本物だ。今の一部始終、拡声器のマイクが拾ってて、放送室で後輩たちが全部聞いてる」 「え」 「校内放送、繋ぎっぱなしだった」 その瞬間、校舎中から地鳴りのような歓声とどよめきが響いてきた。雫は真っ赤になって、その場にしゃがみ込みたくなった。 「もう、最悪……! みんなに聞かれてるじゃん!」 「だからこそ、これは撤回できない告白になったわけだ。……返事、聞かせてくれるか」 尻もちをついたまま、それでも真剣な眼差しでこちらを見上げるアポロに、雫は深いため息をついた。それから、覚悟を決めたように、彼の手を取って引っ張り上げる。 「……こんな馬鹿げた告白、後にも先にもないと思う」 「それは、いい意味で受け取っていいのか」 「いい意味で受け取っていい。……うん、付き合う」 「よっしゃあああああ!!」 再び拡声器を握りしめ、絶叫するアポロ。校舎中に響き渡るその声に、雫は顔を覆いながらも、笑いを堪えきれなかった。放送室からは「おめでとうございまーす!」という後輩たちの声援まで飛んでくる始末だった。 こうして、学園史上もっとも騒がしい告白劇は、もっとも騒がしいカップルの誕生とともに幕を閉じたのだった。

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