鯣烏賊 / 第53話

凍峰に沈む街にて その12

「........................................ホントにあたしたちが入っていいんですよね?ここ。」 「酷えこと言うな。 僕とトケラの仲だ、存分に信用してくれよな。」 2人の男女が、案内を受けながら試験会場を歩いていた。 女の方は身長150ほど、髪色は少し染めた赤で、右肩にかかるサイドテール。 普段は最低限しか済ませない化粧に少し力を入れ、服も住居で来ているジャージの類ではなく、タンスから引っ張り出した生地も値段も良さげな服。 普段よりもおめかしをしている、と言えば伝わるだろうか。 上品な振る舞いだが、いざと言う時にはいつでも動き回れるような服装。 腕にはコスモ制御装置を起動するためのデバイスがついている。一般人から見れば腕時計そのものだろう。 この女の名はリンという。 もう1人の男はリンとは対照的に、背が180を超えている長身。 名はミクロ。 髪の毛は金髪に見えるが、根元に行くにつれ黒になっている..............................いわゆる、染めた髪。 ミクロはリンとは違って、バイクからそのまま降りてきたライダーのような、気合いが微塵も感じられない服装である。 「..............................ミクロさんも少しはオシャレしないんですか?あたしだけ浮いて嫌なんですけど。 何しろトケラさんと会うんでしょ?ならなおさら..............................。」 「僕とトケラは親友だからな。ムダな気遣いはいらねえんだよ。 いや、こいつぁ嘘じゃねえぜ?」 「誕生日に買ってきたマンゴーが、シールだけ貼り替えた偽造高級品だったこと忘れてませんからね。」 「あれは..............................ほら、予算の都合ってやつだ。」 一応上司と部下の関係だが、生活周りの仕事や会計の仕事をまとめてリンがやっている事を考えると、ミクロの生殺与奪の権利はリンが握っていると言っても過言ではない。 マンゴーのエピソードもリンが会計のまとめをしているときに見つけたものである。 リンが事務所に入って2年。 なお、このことはマンゴーで3回目である。 (アロの誕生日にも同じことをしている。) 「ミクロ様、リン様、そろそろ到着でございます。 今一度、コスモ使用の有無に限らず不審なものを持っていないか確認させていただきます。」 「僕とトケラが喧嘩したら100%僕が負けるって........................................ああいや、ジョークジョーク。」 「はいどうぞ。」 リンも、同じ会場で試験を受けたことが(こちらは一般受験だが)あるので、この身体検査も慣れたものである。 身体検査を受け、ナイフや銃、毒の類の持ち物を保持していないことが証明されると、ミクロとリンはとあるドアの前に通された。 「こちらになります。お入りください。」 案内人の退院がカードキーをかざすと、通行許可が降りたのか、ジリジリと光っていたレーザーが消えた。 「リン、ひとつアドバイス。」 「........................................???」 「オイオイ睨むなって。 往来の親友である僕からのアドバイスだぜ?聞いとけ。」 「まあ、はい。」 「トケラは元気あるやつが好きだからな、部屋入ったらハキハキ挨拶しとけ。 お前に損はさせねえ。」 ミクロは片手間に胡散臭くそう言うと、扉をゴンゴンとノックする。 事務所の扉のように金属音がギシギシなることもなく、手入れが行き届いている、とリンは思っていた。 「おーい、トケラ。入るぞーッ、いいんだよなー?」 ミクロは部屋から返事が返ってきているわけでもないのに、ドアノブを捻る。 案内人の隊員が制止しようとするも、ミクロの勢いは止まらなかった。 そのまま扉を開けると、来客ソファのテーブルにお菓子を置いているガタイのいい男の姿があった。 身長は2メートルを超えていても違和感はない。 ボディビルダーも顔負けなほどに筋肉量が多いが、それは実用性を重視した肉体であると一目見ただけでわかる。 「おいリン、元気よーく挨拶。」 「信用できません。 ..............................お初にお目にかかります。リンと申します。」 「チッ、エレガントな挨拶しやがって..............................久々だなぁ、トケラ。」 トケラは挨拶を聞いたのか聞いていないのかわからないような態度で飲み物と菓子類をテーブルに置き終える。 マイペースに自分のデスクに向かい、使っていたお盆を置く。 (ジパングの人っぽい仕草なのね........................................ミクロさんと同じなのかしら?) と、リンは思っていた。 確かにお盆を使ったり、お茶を出したりすることは、味方によれば日本人らしい行為かもしれない。 「来たかミクロ..............................そちらの女性は貴様の同僚か。」 「オイオイ興味はそっちかよ。惚れたのか? こいつぁ僕の部下だ。」 「そうか..............................まあ座れ。」 トケラはミクロとリンの2人に席に座るよう促した。 ミクロは遠慮を全く感じない動きでドスンと腰掛けると、リンにも席を進める。 「なんだこいつ」と思いながらも、リンはソファに腰掛けた..............................遠慮たっぷりな動作で。 「美味そうだなぁ。食っていい?」 「貴様が話すこと話してからなら、幾らでも部屋へ持っていけ。」 「お、部屋ってことは..............................例の件は承認して貰えんの?」 「ああ、部屋2部屋に食堂、技術室の使用許可、ついでにこのカードキーは今言った施設の他に、屋上にも入れるよう設定している。」 トケラは来ている軍服のような服のポケットのひとつからカードキーをふたつ取り出す。 見た目としては、ベロキが「受験票」として受け取ったものと全く同じである。 部屋番号が書かれているだけの無機質な樹脂の札だ。 「よし、これはありがたく貰うぜ。 んじゃ僕は部屋に..............................。」 「待て。」 ミクロが椅子から立ち上がろうとすると、ディランがそれを制止した。 「うわめんどくせ」などと言いたげに顔をしかめたミクロだったが、しぶしぶといった態度で再び椅子に腰掛けた。 「もう話すことねえぞ。秘匿アドレスでてめえに送った通りだ。」 「いや、文面でのお前はあまり信用ならん。 ........................................おい君。そこのドアから離れて持ち場に戻ってもらえるか。」 トケラが廊下に立っていた案内人の隊員に指示を出すと、返事と共に遠ざかるような足音が立ち始める。 廊下の足音が遠ざかっていくことを確認すると、ミクロはお茶を1口啜って話し始めた。 「今日の夜..............................いやぁ、日付が変わった頃かな。ここに敵が来る。」 「気づいた理由は?」 「僕の特異体質。 まあ、てめえも何度か体験してるだろ、これの感知力は。」 「俺はその辺を完璧にわかっているわけではないが。 ........................................偶然の可能性は?」 「ないね。今の僕らじゃ。反応が強すぎる。 それによ..............................この突発性から見て九分九厘、アイツがいるぜ。」 「場所はわかっているだろう?なぜ殴り込みに行かない。」 「言わねえよう釘刺されてる。ざっとレベルBの秘密だ。」 「そうか。俺は何をすればいい?」 「今日寝ずに起きてりゃ、敵襲に気づくさ。」 「..............................本当に全部か?」 「隠し事はしてるが、嘘はついてねえよ。 今からレスパに電話して聞いてみるか..............................僕は嫌だぜ。怒れたくねえ。」 ベロキに試験を受験させることをすっかり忘れ、お説教を食らっているのはまた別の話である。 テーブルに手を置き、ものすごい剣幕でミクロを詰問するトケラ。 それに対し、椅子にふんぞり返って大きな態度をとりながら答えるミクロ。 その高次元な会話に、リンのみがついていけない状態だった。 「まあいい....................お前には言いたいことが山積みだが、終わってから聞こうじゃないか。」 「じゃあ僕かぁ寝てるぜ。」 「好きにしろ。」 その一言で、ミクロとリンの2人は半ば追い出されるように部屋をでて、そのまま食堂に向かったのだった。 カレーが不味いことを知っているリンはもちろんカレーを食べずに、メニューの中で1番マシな味がすると言われているスパゲティで腹を満たすのだった。 そして、自分の知らないところで事が進んでいることに悶々とするのだった。 試験の終了まで、あとわずか。
すこし設定紹介 スターダスト怪獣討伐事務所の食生活はほとんどリンがいないと成り立たない。 ベロキに料理を任せると食材が特級呪物になって返ってくるので、任せられない。しかしやる気満々なベロキに対してリンは少し申し訳なく思っている。 ミクロはいない日の方が多い。いついるかもわからないので、必然的に担当しない。 アロは部屋から出てこない。なにかの研究をしている............................内容はアロとミクロの2人しかしらないが。 よって、食事はリンが作り、リンとベロキで食卓を囲み、食べ終わったらアロの分を部屋に届け、ミクロはいる時に好きなタイミングで食べる、という歪んだ食生活になっている。

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