鯣烏賊 / 第80話

不倶戴天の不協和音 その20

男がふたり、立っていた。 片割れは、2メートル近い身長を持ち、ボディビルダーさながらを持つ大男。 片割れは、もう1人よりは小柄であり、やや痩せている男。 彼らが見据える先には、奇妙な光景が広がっていた。 ただでさえ大きく造られた建物を、巨大な植物か貫いている。 その花弁は月光を反射し、桃色の光を放っている。 本来ただの茎であるそれは、まるで蛇やミミズのように蠢いている。 ふたりの男....................ミクロとトケラは、その奇妙な生物がまるで当然であるかのように佇んでいた。 「すまなかったな。俺の弟子は、やや目指す意識が高すぎるところがあるのだ。」 「ッたくよぉ、互いに正論ぶつけ合うからああなるんだろうが、アホが。」 「だが彼らは、まだ20に満たないだろう?」 「ああそうだな、そうだな。」 ミクロとトケラ。 ふたりは旧友であった。 旧友とはいえ、現在ふたりは互いに28歳。 15歳から現在までの13年間の付き合いであるから、ひょっとしたならば、仙人のような風貌のおじいさま方からしてみれば、ふたりの仲はまだ浅いものかもしれない。 しかし現在のふたりが顔を合わせるのは、実に5年ぶりのことだった。 実際のところは5年と4ヶ月と17日ぶりであるのだが、そんな奇妙奇天烈な記録をつけるような人間はこの世にミクロのみである。 事実、トケラはそのようなことを毛ほども気にしていなかった。 少年の頃から印象はほとんど変わっていないが、内面は変化を見せていた。 とくに、トケラはミクロに対して若干の恐怖心のようなものを感じていた。 彼の見栄っ張りで、大言壮語な言動は昔からそのままであるし、うさんくさい態度も生まれつきのものである。 なにせ、ミクロのその態度が原因で彼らは何度も衝突しているほどである。 しかし、ミクロは変わった。 単に言うならば、うさんくささの裏に、本当に「隠し事」をしている。 トケラはそう確信していた。 トケラも、仕事人としてミクロと数度任務を共にしてきた。 彼から言わせてみれば、ミクロはあまりにも怪しすぎた。 急にふらっと消えたかと思えば、いきなりひょこっと現れる。 そして、トケラの把握していない....................打首刀(※)でも「音|の舞う舞台《オルケストラ》」でもない、正体不明の雷を使っていたり。 ミクロは疾風のように現れ、颯爽と目的を果たして消えてゆく様から、一部の人間たちから神聖視的な尊敬を受けていることも理解していた。 ミクロなら当然だろう、と思う反面、ミクロなら目立ちたがらないだろうとも考えた。 だから陰ながら、「あまり私営の討伐隊に肩入れしないよう」などと理由付け、ミクロから注目を引き剥がすような行動も行った。 聞きたいこと、質問したいことを山ほど抱えながら、しかしそれを飲み込んで。 数時間前に応接室にミクロが現れたときも、聞きたいことで頭が溢れていた。 しかし、長年の付き合いからミクロもまた一杯一杯であることを察知したトケラは、敢えて何も聞かなかった。 ミクロはあの後、本当に眠ったようだった。 トケラの極めて高精度な「呼魔《コマ》」でさえ、微細な殺気を感じられなかったのだから。 だから、彼が連れてきた少女。 ....................とどのつまり、先程助けたリン・シォンガイに近況報告を求めた。 事務所のこと、事務所のメンバーのこと、今ミクロが何をしているのか、など。 もともとは確認のつもりだったが、段々とそれは好奇心に変わっていった。 トケラとしては、旧友のことを聞くことは楽しかったのである。 素直にミクロの印象を求めてみると、やはり「怪しいひと」と答えた。 それと同時に「尊敬はできないが信頼しているし、信頼されていると思う」との発言も記憶に刻まれた。 トケラはそれを聞いて、リンにできるだけ荷物を留めないよう指示してその場を去った。 ミクロが完全に孤独でないことを知り、トケラはやや嬉しかった。 (よかった....................。) 怪しく、うさんくさい人間。 秘密と嘘と目的に塗れた詐欺師。 トラブルを持ち込む厄介者。 そんな印象がひっくり返るわけではない。 むしろ、肥大化したと言ってもよい。 しかし、腐れ縁という言葉がある通り、ミクロはトケラにとって親友である。 疑問だらけである。 「貴様は何を隠している」と、今すぐに胸ぐらを掴んで尋問したいところだ。 しかし彼は、何も問わない。 これまで任務を共にしたときも、偶然鉢合わせたときも、数時間前にミクロが応接室にやってきたときも。 しかし、トケラは待つ。 ミクロが自ら口にするまで。絶対に。 「さて、始めるか。」 「そうだなぁ。」 この瞬間も、またそうであった。 トケラは全てを飲み込んだ。 ミクロに限ってヘマを起こし、自分に全てを話すことなく死ぬようなことはないであろう。 そんな信頼の元に。 そこからのふたりは迅速だった。 なんの危なげもなく、ヒトガタの変身した花と戦闘を進めた。 ミクロは例の雷こそ使わなかったものの、トケラ記憶よりも強力な存在になっていることを十分に誇示した。 トケラも全力でことに当たった。 圧倒的に優位であったが、肝心の攻略法が不明であった。 どこを攻めるべきなのかを、しらみ潰しに探してゆこうという結論に至ったそのとき。 ミクロがハッとして後ろを向いた。 ----- ズザーッ。 数百メートルの距離を走っていた俺は、その場に立ち止まった。 ディラン君を背中におぶったままだが、俺の思考は行動を制御できなかったのだ。 「 ベロキ..........何....................を。」 「....................。」 なぜだろう、すごく納得がいかない。 俺はディラン君に正論をぶつけた。 ディラン君も俺に正論をぶつけた。 それで喧嘩になって、危うく命を落としかけた。 そこをミクロさんとトケラさんに救われて、俺は全力でやつから逃げている。 すぐ後ろを振り返ると、向こう側ですごい音を立てながら戦闘しているふたりが見える。 あの花は....................やっぱり茎のようなアレを触手みたいに使っている。 至近距離だからビームは撃てていないようだけど、それを考慮してなおあの花がミクロさんとトケラさんに勝つ方法なんて残されていないだろう。 まああの薔薇に意思があるのかと問われたらかなり怪しいラインではあるが、あの戦闘は何事もなく終わってしまうだろう。 控えめに言っても、あのふたりは強すぎる。 俺はミクロさんしか知らないが、ふたりとも十分、化け物だ。 ミクロさんだって今の様子を見てみると、この前のペスト戦がさして本気じゃなかったのがよくわかる。 うんうん。 未熟者の若造は逃がして、熟練のふたりが適切な判断をしてあの未知のヒトガタに対処する。 そして俺たちはきっと、この戦いの後に「よくやった」と褒められる。 ひょっとしたら取材なんかが来る可能性もあるわけだ....................絶対に受けたくないけど。 でも、でも、でも。 それでいいのかな。 今日の俺はなんだかすごく、機嫌が悪い。 「はぁ....................。」 俺は振り返った。 完全に、体をシロとミクロさんたちの方へ向けてしまう。 俺はもちろん、ディラン君もあの戦闘を見ることになる。 ....................ところであのふたりは、どうやって勝つつもりなのだろう。 最終的には間違いなく勝てるだろうけど、やつの"弱点"に気づいていないのか。 多分この戦闘は、あの弱点を叩かないと終わらない。 しらみ潰しに攻撃していったらきっとすぐに辿り着ける場所だろうけれど。 「....................。」 いけない。 俺の中に悪魔が出てきた。 まるで、 "なぁなぁベロキのアニキよぉ、これを言い訳にしてもういっぺんあの戦闘に参加できますぜ" とでも囁いてくるようだ。 もちろん俺の中の天使は、 "いけません、そんなボロボロの体で。あなたの役目はディラン様を無事に連れ帰ることです" と諭してくる。 けど、けど、けど。 こんな終わり方、俺は納得したくない。 やっぱり、エゴを....................。 「....................ベロキ。」 トントン、とディラン君が俺の肩を指先で叩いてくる。 視線を横にずらすと、疲労の中に何かしらの"決意"を感じるディラン君の顔があった。 「俺もきっと、同じ気持ちだ。 言いたいことがあるなら言ってくれ。頼む。」 たった一言。 俺の中の何かが吹っ切れた。 それと同時に俺の中の天使が消え、悪魔が消え、そして妖精が現れる。 そうだ。「呼妖《コヨウ》」を使えば、たとえボロボロの体の俺たちでもきっと力になれる。 「呼妖《コヨウ》」以外にも、アテはある。 身体中が暑いのだ。 確実とは言えないものの、今この瞬間ならば"アレ"を使える気がするのだ。 うん、いける。やるんだ。 ディラン君には、多少の迷惑と負担をかけることになるけれど、それでも背に腹はかえられない。 もう、ディラン君だって悪魔だ。俺にああ言ってきたんだ。 ....................。 よし、言おう。言える。 「最後に、俺のワガママに付き合って。」 「任せろ。何でもしてやる。」 俺は走り出す。 ミクロさんたちの方向へ、全力で。 そして中間地点のあたりで回れ右。 そこににある講堂の扉を蹴破って、講堂に侵入した。 講堂の中はなにやら爆破されまくったみたいにボコボコに凹んでいるけど、そんな事は気にせず上に向けて行く。 「やろう、ディラン君。」 「ああ!」 俺たちは、講堂の屋上に出た。 おぶっていたディラン君を降ろし、ふたりでそこに立つ。 どうやら意外と問題ないらしく、その場で駆け足したり跳躍したりしている。 やはり1分や2分程度でも、休息は大事だ。 俺も酔いはマシになっている。 次もう1回使う程度なら、問題ない。 「「鍵《シュリュッセル》」、「速《》ピット》」+「強《ブースト》」!!!」 「|闘い求む拳《ヘラクレス》!!!」 ごめんなさい、ミクロさんにトケラさん。 俺たち、意外と馬鹿でした。 人間性も性格も感情も目的も薄い俺だけど、目の前の欲望に従わせてください! ごめんなさい! そして、お願いします!
※ 打首刀 ミクロの使用する刃武装。 詳細は今後。

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳