NAWOMIDOU / 第8話

第五部:壊れゆく世界、そして記録されない夜

 三宮で四軒の店をハシゴしたあの夜の後、職場に戻った私たちは、以前よりもいっそう深い絶望を共有するようになった。  外の世界の「まともさ」を味わってしまった分、サウナという閉鎖空間に漂う湿った淫靡さと、上司たちの横暴さが、耐えがたい悪臭となって鼻を突くようになったのだ。  社内では、崩壊の兆しがあちこちに現れていた。  更衣室での盗難、高級腕時計の紛失、そして、あの上司Fによる自動販売機の売上金流用疑惑。  信じていたものが次々と裏切られ、同僚たちが疑心暗鬼に陥っていく。二十年後の今、私は確信を持って言える。あの場所は、最初から壊れていたのではない。壊れていくことそのものを燃料にして、無理やり稼働し続けていた巨大な装置だったのだと。  そんな中、恒例の社員旅行の日がやってきた。  給与から強制的に積み立てられた金で行われる、名ばかりの慰安旅行。  私はカメラ係を志願した。レンズというフィルターを通すことで、自分がその醜悪な集団の一員であることを忘れ、単なる「記録者」として振る舞いたかったのだ。  出発前の早朝。  バスを待つ人混みから少し離れたところで、あなたは一人、冷たい空気の中に立っていた。  私は、吸い寄せられるようにあなたにレンズを向けた。  「あ、撮るんですか?」  あなたは照れたように、けれどどこか寂しげに笑った。  あの瞬間のあなたの顔を、私は二十年経った今でも鮮明に思い出せる。それは、これから始まる狂宴を予感しているような、諦めと、微かな期待が混ざり合った、複雑な表情だった。  シャッターを切った瞬間、私は思った。――この人を、この場所から連れ出さなければならない、と。

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