綿ダッコ / 第1話

大太鼓

 ——|郭地祭《かぐちまつり》で花火と一緒に大太鼓を叩こう!!  大太鼓か…………。  ここらへんでは滅多にない機会やし、応募しようかな。 「|荊綾《けいりょう》にピッタリやん」  確かに、習ってたし、今でもちょくちょく叩いてるから、めちゃくちゃしたいけど…………。 「|啓照《けいしょう》やん。…………でも、今年も3人で行きたいしな〜」  今年も啓照と|天羽《てんは》と行きたいけど、大太鼓を叩いたら、回れる時間取れなさそうやしな…………。 「今年から0時までやってるらしいで?」 「マジで!?」 「うん、花火上がる時間変わってないし、最後の枠やったとしても、1時間ぐらいは楽しめるんちゃう?」  なら、全然ありやな。  来年は大学受験やし、こうやって出来るのも最後かもしれんしな 「あ、荊綾と啓照じゃん」 「「天羽!!」」  相変わらず、遅くまで残ってるよな。  …………まぁ、偏差値高いところに行くらしいし、おかしなことではないか。 「なに見てるの?」 「郭地祭で大太鼓叩けるかもしれんねんて」 「荊綾、大太鼓習ってたんやから、ピッタリじゃん」 「そうなんやけど、一緒に行けんようになるしさ…………」 「今年、塾で行けなさそうだから、大太鼓やったら?」 「あっ、今年は俺も家族と行くことになったんや…………。荊綾の得意を活かせるチャンスやん」  …………行けなさそうなんか。  寂しい気もするけど、せっかくなら応募するか。 「なら、応募しよ」 「お母さんに動画撮ってもらっとくね!!」  現地で天羽に見せたかったけどな…………。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「荊綾、練習は順調か?」 「トリやから大変やわ」  まさか、トリになるとはな。  本当に最後の枠しか空いてないなんてあるんやな…………。  でも、トリを任されるのは普通に嬉しい。  順調にいけば、本番までには仕上がってるやろ。 「荊綾、荊綾!!」 「天羽、そんな急いでどうしたん?」  天羽がこんな時間に帰るの珍しいな。  いつもなら、自習室に行ってるはずやのに。 「私、郭地祭に行けることになった!!」 「「マジで!?」」 「塾の予定が1日早くなったの!!」 「じゃあ、見れるんちゃうん?」  「そうだよ。荊綾の大太鼓、楽しみだな〜」 「トリやし、めちゃくちゃいいやん」 「荊綾、トリなの!?」 「まぁ……」  …………ヤバい、急に緊張してきた。 「良かった〜。撮った動画は啓照にも送っとくね」 「俺の分まで見といてやれよ」 「そんな大げさじゃないんだから」  …………この笑顔を糧にしやんとな。 「じゃあ、楽しみにしとくわ」 「ばいばーい!!」「また明日、啓照」 「そうだ。大太鼓の演奏が終わったらさ、郭地神社の近くの高台に行こうよ」 「……いつも行くところ?」 「そうそう、あそこなら特大花火がよく見えるじゃん」 「…………せやな」 「約束ね」 ◇ ◇ ◇ ◇ 「はい、そこまで。順調やな、荊綾」 「ありがとうございます!!」  やっぱり師匠には、なんやかんやでお世話になってるな。 「そういえば、師匠も出るんでしたっけ?」 「ああ、荊綾が出る高校生部門の後に成人部門があってな。そこのトリなんや」 「師匠もトリなんですか!?」 「そうやぞ。最後の特大花火に合わせやなあかんから、毎日荊綾と同じくらい練習しとるわ」  そんな大変やのに…………。 「すみません…………。俺のために時間使ってもらって」 「気にするな。昔から言ってるやろう?笑顔が大事やと」  …………そうやったな。  師匠はいつでも笑顔やった。  今もだ。 「そうでしたね」 「そうだ、いい笑顔や」 「…………ありがとうございます」  改めて言われると、恥ずいな…………。 「そういえば、昔よく来てた…………、てん…………」 「天羽のことですか?」 「そうそう。天羽は見に来るのか?」 「…………はい」  …………まだ、練習時間はあるよな? 「なんだ、顔を真っ赤にして」 「え?」  赤なってた!? 「まぁ、詳しくは聞かんが、初志貫徹は大事やぞ」  …………初志貫徹。  大太鼓を始めた理由、か。 ◇ ◇ ◇ ◇  やっぱり、本番はいつになっても緊張する。  天羽は…………、低いところやから見えんけど、今は大太鼓に集中するか。 「ちょっと良い?」 「は、はい!!」  主催者がどうしたんやろ? 「実は…………、取材が来てて、取材の時間が追加されるんだけど、予定は大丈夫?」 「特大花火は…………」 「多分、予定通りじゃないかな」 「…………そうですか」  あそこまでは意外と時間かかるし、間に合うんかな…………。  …………あかん、余計なことを考えたらミスる。 「荊綾〜!!」 「天羽……!!」 「久しぶりに見た。荊綾の衣装」 「……天羽の浴衣こそ一昨年ぶりやん」 「そうだったね〜」  …………間に合ってくれ。 「頑張ってね!!」 ◇ ◇ ◇ ◇ 「(笑顔、笑顔)」  …………今は演奏に集中する時。  間に合うかどうかじゃない。  余計なことを考えたら、リズムが狂う。  撮られてるんやから、情けないところは見せられない。  師匠にも悪いし。  …………一番難しいところ。  初志貫徹。  あそこに行くのに…………いや、バチを振るのに間に合う。  そうだ、バチを振るのに間に合う。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「お疲れ様。浮かない顔してるけど、大丈夫?」 「…………大丈夫です」  それどころじゃない。 「特大花火に間に合わせたいのは分かるけど、体調が心配だからさ」 「…………体調は大丈夫です」 「…………もしかして、誰かと待ち合わせしてる?」 「まぁ…………」 「どこに行くの?」  …………早くして。 「もう一つの神社です」 「…………分かった。どこまで出来るか分からないけど、走りやすいように警備員に言っておくよ」 「本当ですか!?」 「ああ、行っておいで」 「ありがとうございます!!」  …………ここまでしてくれたんだ。  絶対に間に合わせる…………!! 「荊綾!!」 「天羽、行こう!!」 「えっ、ちょ…………」  …………確かに走りやすい。  脇ではあるけど、その分、注目もされずに走れる。  …………ありがとうございます。 「荊綾、間に合うの?」 「間に合わせる。それが約束やろ?」 「…………うん」 ◇ ◇ ◇ ◇ 「「はぁ、はぁ…………」」 「意外と間に合ったね」  まだ、特大花火は上がってない。  良かった…………。  薄っすらと、師匠の大太鼓の音が聞こえてくる。  見なくても分かる。 「…………せっかくだしさ、さっきの荊綾の演奏を聴きながら見ようよ。昔っからの私の夢」 「…………俺も」  俺は天羽が聞いてくれる演奏をしたい。  それが始めた理由でもあり、今でも続ける理由。  …………今日、出来たってことだよな。 「それってどういう——」 ——ドカーン 「うわ~、綺麗だね!!」 「…………せやな」 「…………結局、聴けなかったね」 「ちょっと遅かったか」  でも、そんな演奏できただけ、まだいいか。 「もう、演奏中の笑顔はどこに行ったの?」 「え?」 「私は、荊綾の演奏中の笑顔が一番好き」

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