最強バトルの人 / 第47話

第29話 老厨中華飯店!

『老厨《らおちゅう》中華飯店』 世界的に有名な中華料理店。 席数は89席。その絶品の味を求めて、世界中から食通が訪れる。 店主はラオ・チュウ(70代・女性)。 驚くべきことに、食材の仕入れから仕込み、調理まで、厨房のすべてをラオ一人で担っている。 近隣にはのどかな田園風景が広がる。 交通の便が良いとは言えないが、ぜひ一度訪れていただきたい名店である。 ―――――― 「あぁ、おなかが空いた。もう待ちきれない」 アタシは雑誌を閉じて、店内を見渡す。 そこには、雑誌の写真と同じ店内が広がっていた。 赤色を基調とした壁。 丸いテーブルと木製の椅子。 天井には赤い提灯がいくつも飾られている。 その広い店内は、ほとんど満席だった。 中華鍋を振る音。炎の音。食器の音。 店員の掛け声に、客たちの話し声と笑い声。 静かさとは程遠い店内は、むしろこれから始まる未知の味への好奇心を刺激する。 (『待つ』こと自体は嫌じゃあないわ。ただ……) 彼女はサングラスを指で少しズラした。 (『待たされる』のは嫌いなの。あと1分、ご飯がでてこないなら、店を出る) 我々は、彼女を知っているッ! いや、彼女のピンク色の髪、露出の多いモデルのようなファッション・センスを知っているッ!! 彼女が、サングラスを外すッ! ドッギャァーーーーーーン (『やりたくないことは、絶対やらない』。それが私の、黄金の覚悟。) [[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/5f02bf16-12c5-4480-9d7f-82c77220e38d/1790451374734-95a5bde3-cc70-47cb-b021-5200542d46ea.jpg]] ジョアンナ・ジョプリン19才、その女性だった。 ―― ジョアンナは頬杖をつき、不機嫌そうな顔で、テーブルを指でトントンと鳴らす。 (1……。2……。3……) 「お待たせいたしました!」 「!」 目の前に、紅焼魚《ホンシャオユー》が盛り付けられた皿がコトンと置かれる。 湯気とともに立ち上る、食欲をそそる香り。 艶やかな飴色に煮付けられた魚を、ジョアンナは箸できれいにほぐし、一口頬張った。 「――おいしっ!!」 さっきまでの不機嫌そうな顔が、一瞬で消えた。 「なにこれっ! おいしっ! すっごくおいしいっ!!」 その味は、世界中から食通が訪れるというのも、納得の味だった。 そして食後。 ジョアンナがゆっくりと水果茶《フルーツティー》を飲んでいると――。 店の入り口が開き、ツリーチャイムの音がチリンチリンと鳴った。 (ん?) ジョアンナは、入り口の方向に目をやる。 そこにいたのは――。 デカいガラの悪い男。頭に髪の毛の一本もない男。そして――。 「――あらッ! あなた! シャオちゃんッ!?」 ガタッと立ち上がり、入り口を指差す。 入り口にいた少女は、表情をキラッと輝かせた。高く上げた手を、左右にぶんぶん振っている。 シャオ「ジョアンナー! ひっさしぶりアルー!!」 * ジョアンナ「え――っ! シャオちゃん、せまっ苦しい男だらけのきったないおんぼろアパートに出入りしてたの――っ!! それって、『スキャンダル』だわっ!!」 シャオ「? そうアルか? なかなか楽しかったアルよ!」 ドウ「まあな。この俺もいたからな」 ジョアンナ「だれよこのハゲ」 シャオ「ただのハゲアル」 ドウ「おいっ! お前がガラスにして粉々にした男っ! ドウ・ナットンジャだ――」 ジョアンナ「知らない。ガラス? よくあることよ。ねぇ――シャオちゃん。このお店よく来るの?」 シャオ「はじめてアル! おなかすいたアルー!」 ジョアンナ「奇遇ね! アタシも初めて! このグルメ雑誌に書いてあったのを見て、もう行くしかないって、すぐに飛んできたの!」 きゃあ きゃあ きゃあ ……。 またか。 このふたりの間には、男が入ってはいけない雰囲気がある。 相席にしてもらったのはありがたいが、女子組と男組で完全に分断されている。 「おい、ドウ。しりとりでもしようぜ」 老師も何か変な感じだ。なぜか身体が小さく見える。若い女性との接し方がわからないのかもしれない。 「キュウ?」 子パンダも老師の様子に戸惑っている。 * ジョアンナ「えぇっ!? ハゲくん、一回死んだの!?」 シャオ「そーアル! 笑っちゃうアル!」アハハハ ジョアンナ「笑えないわよ」 シャオ「そうだったアル」シュン ジョアンナ「……ところで、このダメそうな親父はだれ? ストーカーなら私がブン殴ってあげるけど」ヒソヒソ シャオ「火鍋アル! 火鍋! あいさつするアル!」 急に話を振られた火鍋は戸惑っている! 女子ふたりの視線が火鍋に集中する。 火鍋は、頭をかきながら会釈をした。 火鍋「……はは、ぼくは火鍋くんといいます。まだまだ、若いものには負けないぞ! って感じです!」 変に緊張した老師を見て、ドウは思った。 ドウ(……これは『シャバい』とかでは、ないのか?) * 「じゃーねぇ――! シャオちゃ――ん!」バイバイ 「バイバイアルー! ジョアンナー!」バイバイ ジョアンナは、水果茶《フルーツティー》を飲み終え、帰った。 俺は、笑顔で手を振り続けるシャオを見て言った。 ドウ「お前って、ふつうに女友達とかいるんだな」 シャオ「? ともだち? ジョアンナと子パンダちゃんだけアルよ。旅ばっかりしてたから、ともだちいないアル」 ――。 ――失言だった。そうだった、シャオは7才からずっとウーミンを追って旅をしていたのだ。 あまりに楽しそうにジョアンナと話しているから、想像力が足りていなかった。 「――。すまん、シャオ」 「? なにがアル? しかし、メシはまだアルかなー」 注文は、席に座った時にホールスタッフの人に伝えている。 すると――。 ゴトッ 炒飯が置かれた。 「おまちどう。――あんた、火鍋だね。久しぶりだね」 「おうっ! ばあさん! 元気か!?」 火鍋の顔がぱあっと明るくなった。 「まあね。このあたしがくたばってちゃ世話ないよ」 火鍋が老婆を指差しながら、俺たちに振り向く。 「おい! お前ら! 紹介する! 老厨中華飯店のオーナーで、第一回中国最強トーナメント優勝者の、ラオ・チュウ老師だ!」 指さされた老婆は口角を上げた。 [[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/5f02bf16-12c5-4480-9d7f-82c77220e38d/1790451335346-769ad00d-71a8-42f0-84d6-c133c2ea72c9.jpg]] 「なんだね。飯を食いにきただけじゃあないのかい」 火鍋老師は、ラオ・チュウの両手を包み込むように握り、頭を下げた。 「ばあさん! こいつらを強くしてやってくれ!」 ! 老師! 俺たちのためにそこまで――! ドウも立ち上がり、頭を深々と下げた。 「よろしくお願いします! 俺たちに修行をつけてくださいっ!」 それを見たシャオも、同じく勢いよく頭を下げる。 「――よろしく頼むアルっ! ウーミンを……! “黒龍拳のウーミン”を! ――爸爸《ぱーぱ》の仇を、討ちたいアル!!」 「キュウ!」 全員がラオ・チュウに頭を下げる。 ラオ老師がそれを見て、ニッコリと笑った。 「――ほう。“黒龍拳のウーミン”を、倒したいのかい」 「「「はいっ!!」」」 声が揃う。 ラオ老師は、息を大きく吸い込み、声を出した。 「それなら――――っ!!」             「無理だね。弟子はとってないよ」スタスタ ズコーーーッ 俺たちはズッコケた。 「おい! ばあさん! かわいい元弟子が頼んでも駄目なのかよ!」 火鍋老師が抗議する。ラオ老師はまた笑った。 「かかかっ。お前のどこがかわいいんだいっ! あいにく拳法は教えてないのさ。ただ――」 今度は、真剣な顔で俺たちを見る。 「――ホールスタッフは足りてないがね。さっき、客を3秒も待たせちまった。」

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