ふみの世界樹 / 第26話

閑話一 第一話 オハヨー・ゴザイマス。

「オハヨー・ゴザイマス。ヴァン=サン」  ミコトが、外国人になった。  違う。  最初から和之国人だと分かっている。  今まで、公用語を使っていなかったに過ぎない。それが今日は、様子が違った。  ヴァンは礼拝堂の入口で止まった。  手には、小さな箱の包みが一つ。  兄貴に頼まれたものだ。  エイデン神父へ持って行け、と言われた。中身は知らない。聞いても、知らんでえい、と返される。  だから持って来た。  礼拝堂には、エイデン神父とつばめがいた。  ミコトもいた。  長椅子の前に立ち、両手を胸の前で握っている。  顔は真剣だった。  ただし、言葉が変だった。 「オハヨー・ゴザイマス」  ミコトはもう一度言った。  つばめが軽く手を叩く。 「うんうん。さっきよりいいよ。けど、ちょっと固いね。もっと普通に」 「普通に」 「そう。朝に会ったら言うだけ。剣を抜くみたいに構えなくていい」  ミコトは頷いた。  そして、こちらを見た。 「オハヨー・ゴザイマス。ヴァン=サン」 「……おはよう」  返すしかなかった。  ミコトの顔が少し明るくなる。  通じた、という顔だった。  ヴァンは包みを持ち直した。 「エイデン神父」 「はい」 「兄貴から」 「ヴァルクさんからですか」 「ん」  ヴァンは包みを差し出した。  エイデン神父は、ごく自然に受け取った。 「確かに受け取りました。ありがとうございます」  神父なのに、隙がない。 「……別に」  あの兄貴の友達なら、そんなものか。  つばめが横から言った。 「せっかくだし、ヴァン君も練習に付き合ってあげなよ」 「なんで」 「相手がいた方が覚えるでしょ」 「おれは届け物に来ただけだ」 「うん。だから、ついで」  ついで。  便利な言葉だった。  ミコトは、少し緊張した顔でこちらを見ている。  ヴァンは帰っていいか考えた。  だが、包みはもう渡した。 「……何をすればいい」  つばめが笑った。 「朝の挨拶。もう一回」  ミコトが背筋を伸ばす。 「オハヨー・ゴザイマス。ヴァン=サン」 「おはよう、ミコト」  ミコトは一拍置いて、今度は少しだけ滑らかに言った。 「キョー、モ、ヨロシク、オネガイシマス」 「長い」 「長い、ですか」 「朝から言うには」  ミコトはつばめを見る。  つばめは笑っていた。 「まあ、丁寧ではあるね」 「丁寧」 「悪くはないよ。でも、相手がヴァン君なら、もうちょっと短くていい」 「短く」  ミコトは考え込んだ。 「オッス」  真面目だった。 「そうか、頑張ってるな」 「ドーモ、アリガト」

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