南江行瀬 / 第1話

プロローグ

 いきなりではあるが、私は転生者だ。  前世はいわゆるヤクザの家系に生まれ、それなりの人生を歩んでいた。両親には厳しく育てられたけど、甘やかされてもいたと思う。  一番私を甘やかしていたのは組の人達。お嬢と私を呼び、暇さえあれば遊んでくれたり、お菓子をくれたりしていた。  そんな人生を歩んで十七年。私は交通事故でポックリ逝ってしまった。 「そして今に至る……と」  目の前に広がる大自然。身にまとっているのは、服とは到底言えないボロ布のようなもの。  ついさっき親に捨てられたばかりだ。  今世の両親は浪費家で、あらゆる場所から借金をしていた。毎日家の戸を叩く借金取り。それに懲りず、両親は借金生活をやめなかった。  そしてついに家計が回らなくなり、私は売り飛ばされ…………ることはなく、何故か森に捨てられた。 「まあ、最後の良心だったりするのかな。両親だけに」  つまらないギャグに乾いた笑いが零れる。  しかし、これからどうするべきか……。お金なんて持たされてないし、この場所がどこかも分からない。  今の体は七歳前後。力も体力も、今は貧弱レベル。下手に動くのは最善ではない。なんとか身を隠して安全を確保しないといけない。  この世界には、魔物や魔獣と呼ばれる生き物が存在しているし、見つかったりしたら大変なことになる。 「ここで人生終わるのだけは嫌だ……」  そんなことを考えていると、遠くの方から足音が聞こえてくる。反射的に草むらに身を隠し、近付いてくる存在に目を凝らす。  ザッザッと聞こえてくる足音は、少しずつ大きくなってくる。そして見えてきたのは…………。 「ふぅ……。だいぶ薬草も集まったな」  大柄な男の人だった。  暗めのローブに身を包み、手には袋のような物を持っている。  恐らく人だろうが、安全な人物かどうかは分からない。もう少しだけ観察をしておこう。 「さてと……あとは野草も少し取って帰るか」  そんなことを呟いていると、大男の近くに小さな猫が現れた。その存在に気がついた大男は、身を屈めて猫に手を伸ばす。 「シャーッ!!」 「痛っ」  威嚇をされて引っ掻かれたのか、小さな声が聞こえてきた。その猫は何故かこちらに走ってきて、私の胸に飛び込んできた。 「わっ、と……」 「……!そこに誰かいるのかい?」  咄嗟に口を塞ぐが、大男はこちらへ向かってくる。その気配に驚いたのか、猫はまたどこかへ行ってしまった。 「おーい、誰かいるの?」  がさりと草むらが掻き分けられると、大男と目が合った。顔は傷だらけで、目元はつり上がっている。身長も二メートル超えてるんじゃないだろうか。  大男は、私の姿を見ると目を見開き、手を差し伸べてきた。 「だ、大丈夫かい?」   ​───────  薬草を取りに来た森の中、そこには何故か小さな女の子が居た。ボロボロの服を着て、体や髪は薄汚れている。普通の迷子じゃないのは見て分かる。 「だ、大丈夫かい?」  なるべく怖がらせないように、身を屈めて声をかける。  大きな赤い瞳で、僕をじっと見つめている。怖くて動けないのかと思ったけど、その瞳に恐怖の色はなかった。 「……かっこいい」 「え?」 「お兄さん、すごくかっこいい!」  予想だにしなかった反応に、僕は固まってしまった。  差し出した手を握って、キラキラした目で僕を見つめている。 「……怖く、ないの?」 「怖くないよ。見慣れてるから」 「見慣れて……?」  よく分からないけど、怖くはないらしい。  とりあえずこの子は保護しよう。この森は比較的に魔物は少ないけど、居ない訳ではない。連れ帰った方が安全だ。  それにこんなに痩せてるなんて、何かあったに違いない。 「えぇっと、キミを保護しようと思うんだけど……いい、かな?」 「むしろお願いします」 「あ、はい」  食い気味に言われ、抱き抱える。  片手でも簡単に抱えられる程に軽く、この子が置かれていた環境が嫌でも想像できてしまう。  なんでこの場所に居たのかは分からないけど、それなりの理由はありそうだ。 「キミ、名前は?」 「ラール。あなたは?」 「僕はガドル。よろしくね」
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