芦名 雅(あしな みやび)(@EX-EXTRA) / 第21話
第1話 私を助けてください
インターホンが鳴ったのは、昼飯のカップそばに湯を注いだ直後だった。宅配を頼んだ覚えはない。放っておこうかと思ったが、続けてもう一度鳴った。蓋を押さえるために載せた募集要項はそのままにして、玄関へ向かった。
扉の前に、知らない女の子が立っていた。紺のジャケットに、丸い眼鏡。後ろで結んだ栗色の髪が少し乱れている。両腕で抱えている分厚い紙の束には、付箋がびっしり貼られていた。
「玖城朔さんでしょうか?」
「そうだけど」
「私を助けてください!」
いきなり頭を下げられた。
彼女の肩越しに廊下を見る。追ってきた人間はいない。首にも腕にも、それらしい装置はついていなかった。ただ、袖口から見える細い手首に、赤い輪ゴムが1本食い込んでいる。
こういう訪問は、前にもあった。借金のかたに参加させられた奴や、面倒事に巻き込まれた奴が、俺の噂を聞いて頼りに来る。だいたい、最初は「助けてください」しか言わない。
「何のゲームだ」
「え?」
「参加させられてるんだろ。あと何分ある?」
「あ、いえ! まだ3日あります!」
3日か。72時間もあれば、対策も立てやすい。
「ルールは?」
「次の企画会議までに、新しいデスゲームを1本考えないといけないんです」
扉を閉めた。
閉まりきる直前、紙の束が隙間に差し込まれた。
「待ってください! お願いします! 134連勝の玖城さんなら、何かいいアイデアがあるんじゃないかと思って!」
「俺は出るほう。作るほうじゃない」
「でも、作るほうの考えていないことを、いつも思いつくじゃないですか!」
言い返そうとしたが、反論が浮かばなかった。
それは、まあ、そうだ。
デスゲームで飯を食って4年。134回出て、134回勝った。金だけなら、もうしばらく働かなくてもいいくらいにはある。それでも募集要項を見ると、つい最後まで読んでしまう。
主催者は、参加者がどうやって勝とうとするかまで考えてルールを作る。それでも、見落としはある。「他人に渡すな」と書いてあっても、「床に置くな」とは書いていない。なら、拾わせればいい。
そういう、禁止したつもりで禁止できていないやり方を見つけるのが、たまらなく好きだった。
「……どこの会社?」
「ミナト遊戯企画です。花巻こはると申します」
「会社に言われて来たのか?」
「いえ、会社には内緒です。相談したら、自分で考えなさいって言われるので」
言われる前から分かってるじゃねえか。
俺は扉を開けた。挟まっていた企画書の角が、見事に潰れている。花巻はそこを指で伸ばしながら、期待に満ちた顔を上げた。
「相談、乗っていただけるんですか?」
「話を聞くだけな。あと、俺の住所はどこで知った?」
「参加申込書です」
「いや、個人情報の管理どうなってんだよ」
「ちゃんと、こちらに書いてあります。『業務上必要な場合、記載事項を社内で共有することがあります』と」
女が紙の束から申込書の写しを出し、右下を指した。何か書いてある。文字だということまでは分かった。
「読ませる気あるのか、これ」
「拡大したものもございます」
「住所を使う前に、そっちを見せろ」
入れるべきではなかったかもしれない。
居間へ戻り、花巻を食卓へ座らせた。俺はカップの上の募集要項を取って食卓の端へ置き、蓋を開けた。向かいの椅子を引くと、彼女が書類を広げようとするので、そばを片手で持ち上げて場所を空けた。
「食事中でしたか。すみません」
「もう遅い」
「私、おそばは大好きです」
「そうか」
「地元の名産なんです」
知らない女の子に地元の話を聞かされながら、伸びかけたそばを食う休日になった。
「それで、どんな案があるんだ? まったく何も考えてないわけじゃないんだろ」
「はい! わんこそば早食いゲームです!」
箸を止めた。
「……わんこそば?」
「ご存じですか?」
「知ってるけど」
「小さいお椀に一口ずつおそばを入れて、食べ終わったら、給仕の人がすぐ次を入れてくれるんです。蓋を閉めるまで、どんどん――」
「知ってるって言っただろ」
「あ、すみません。知らない人には、普通のおそばと何が違うのかって聞かれるので」
花巻は照れたように笑い、書類を1枚めくった。
そこには、椅子とテーブルの図面があった。椅子からはベルトが伸びている。その横には、見覚えのある形の首輪。
そばを置いた。
「それ、爆発するやつ?」
「はい!」
「わんこそばに?」
「デスゲームなので!」
なるほど。俺の聞き方が悪かった。
花巻は図面をこちらへ寄せた。さっきまで玄関で必死になっていたのが嘘のように、声が弾んでいる。
「6人で競います。最も多く食べた方が優勝です。ただ、食べたふりをして捨てる人がいたら、真面目に食べている方が不利になりますよね?」
「まあな」
「そこで、椅子とテーブルに重量センサーを入れました! 体重の変化と、おそばの減少量を照合するんです!」
図面には、あちこちに数字が書き込まれていた。椅子の脚にも、テーブルの脚にも、線が何本も伸びている。そば屋の設備とは思えない。
「さらに、首輪にはのど越しセンサーを搭載しました!」
「のど越し……いるのか、それ?」
「もちろんです! 口に含んだだけで、食べたことにされたら困りますから」
「飲み込んだかまで監視するのか」
「はい! ちゃんと飲み込むまで得点にはなりません!」
俺は、自分の首へ手をやった。
何度も首輪をつけられてきたが、昼飯まで監視されたいとは思わない。花巻はその動きを見て、安心させるつもりらしく付け加えた。
「普通の呼吸では作動しませんよ」
「そこは当たり前であってほしい」
「器の出し入れも補正します。重量の検知精度は、0.0001グラムです」
「……ゼロ、何個言った?」
「小数点のあとにゼロが3個、最後が1です」
箸についた汁を見た。
たぶん、これだけで死ぬ。
「ちょっとでもこぼしたら、首輪が爆発しないか?」
「そうなんですよ!」
なぜ嬉しそうなんだ。
「始まってすぐ、全員死んじゃって」
花巻は、図面の下から別の紙を引っ張り出した。上のほうに〈結果報告〉と書いてある。6人分の欄に、同じ2文字が並んでいた。
失格。
「それでゲームがサレンダーになっちゃって、部長にこっぴどく怒られました……」
「誰が降参したんだよ。全員死んでるだろ」
「そうなんです。優勝者も決められなくて」
彼女はそこで初めて、しょんぼりした。
「新しい案を聞いたんだけどな」
俺は結果報告から図面へ目を戻した。134連勝していても、汁を飛ばさずそばを食う訓練はしていない。今、箸で持ち上げた分を口へ入れようとしただけでも、かなり危うい。
こいつのゲームには絶対に出ない。
「試してからやれよ」
「試しました!」
「じゃあ、何で」
「その時はゆっくり食べたので、うまくいったんです。計測値も全部合ってました」
「早食いのテストを、ゆっくり食ってやったのか?」
「装置のテストですから」
花巻はそこだけ、きっぱりと言い切った。
自分の失敗を誤魔化している顔ではない。本当に、装置は何も間違えなかったと思っている。
「本番でも計測は正確でした。こぼした瞬間に検知して、遅延もなく――」
「そこを誇るな。全員死んだところだぞ」
「はい。なので、次はもっと長く遊べるものを、と」
俺はそばの容器を持ち直した。相談が終わるまで待っていたら、食い物ではなくなる。
俺が紙を返そうとすると、花巻は両手で押さえた。
「でも、わんこそば自体は面白いんです。本当に。うちの町のお祭りだと、大人も子供も一緒にやって、食べたお椀を積み上げて。隣の人に負けたくなくて、もう1杯って」
「首輪もつけるのか?」
「地元ではつけませんよ!」
「当たり前だろ! 地元の祭りで人が爆発したら事件だろ!」
「だから、その楽しさをもっと大きな規模で――」
「地元の人は、途中でやめられるだろ」
花巻の指が、紙の上で止まった。
「……蓋をすれば」
「お前のは?」
「蓋は禁止です。隠せてしまうので」
楽しいところから順番に取り除いて、最後に爆薬をつけたのか。
俺は図面の首輪を指で押さえた。首輪の下には、ずいぶん立派な椅子が描かれている。背もたれも肘掛けもある。座り心地はよさそうだ。
「椅子から立つのは」
「禁止です」
「器を替えるのは」
「指定のもの以外は禁止です」
「他の参加者に渡す」
「もちろん禁止です!」
「できること、そば食うだけじゃねえか」
「早食いゲームですから」
花巻は少しむっとしたようだった。ここまで来て、ようやく俺と意見が違うことに気づいたらしい。
「でも、同じ条件で競わないと、不公平になりませんか?」
「同じ条件ならいいんだよ。その中で、何をするかを選ばせろって話」
「食べる速さを選べます」
「遅かったら死ぬだろ」
「はい」
「それは選ぶって言わない」
俺は背もたれへ体を預けた。説明すればするほど、そばが伸びていく。花巻は赤いペンを出し、企画書の余白へ何か書き始めた。
少し身を乗り出して見た。
〈選択肢を増やす〉
ようやく伝わったか。
その下に、もう一行増えた。
〈温・冷〉
「そばから離れろ」
花巻が顔を上げた。
「冷たいほうが早く食べられると思うんですが」
「それで全員が冷たいの選んだら、また同じだろ」
「では、温かいほうの得点を高くして――」
「待て。そういうのじゃなくて」
言いかけて、止まった。
温かいほうが得点は高い。だが、食べにくい。冷たいほうは得点が低いかわりに、数を稼げる。どちらを選ぶかは、相手が何を選ぶかにもよる。
いや。それでも、結局そばを食っている。
食うことにこだわる必要はない。途中で変えられる権利を売るとか、相手の得点を引き受けるとか。何かを受け取れば得になるが、受け取りすぎると困る。そばではなく、金なら――。
「玖城さん?」
顔を上げると、花巻がこちらを見ていた。
俺は食卓の端に置いた募集要項を取った。裏は白い。ペンを取り、6つの丸を描いた。
「例えば、全員が金貨を持って始める。誰かに渡してもいいし、受け取らなくてもいい」
「お金を、受け取らないんですか?」
「そのほうがいい時もある。一度受け取った相手からは、次から断れなくなる」
花巻は図面を脇へ寄せた。空いたところへ、俺が描いた6つの丸を置く。
「いちばん少ない奴が死ぬ。最下位が同じ枚数で並んでいたら、誰も死なない」
「では、少ない人に配れば助けられますね」
「片方にだけ配ったら?」
花巻の目が、紙へ落ちた。
俺は2つの丸へ同じ数字を書き、片方だけ1枚増やした。もう片方の丸を、ペン先で叩く。
「こっちが、1人で最下位になる」
「……お金をもらう人ではなくて、もらわなかった人が死ぬんですか」
「そう。だから、誰から受け取るかを考える。今くれる奴が、あとで何に使うつもりか」
花巻は黙って紙を見ていた。
俺は6つの丸を線で結び、1本を途中で止めた。渡した相手から必ず返してもらえるとは限らない。自分に返させるより、別の奴へ送らせたほうがいいこともある。
どこまで相談を認めるか。手持ちの枚数は公開したほうがいい。誰が誰から受け取ったかまで公開すると、少し味気なくなる。
ペンを持ったまま考えていると、花巻がそっと口を挟んだ。
「玖城さんって」
「うん?」
「結構、ひどいことを考えるんですね」
俺は顔を上げた。
「お前にだけは言われたくない」
「私は、ちゃんと食べれば勝てるようにしたんです」
「ちゃんと食べた奴から死んだんだろ」
「こぼさなければ!」
「だから、それが無理だって言ってるんだよ!」
花巻は自分の図面を引き戻しかけ、俺の紙をもう一度見た。比べるように視線を行き来させてから、赤いペンの蓋を外した。
「でも、これなら食べるのが苦手な人もできますね」
「食べないからな」
「お金を受け取るだけなら、体格も関係ありませんし」
「お前、まだわんこそばと比べてるだろ」
彼女は返事をせず、俺が止めた線の先へ小さな矢印を足した。
「ここへ送ってもいいんですよね?」
紙を見た。
それをすると、助けた相手が次に困る。さっき受け取った1枚を返せばいいと思うだろうが、その返し先を変えられたらどうなる。
「……いい。送れることにする」
「では、これは?」
「ちょっと待て」
俺は彼女の矢印の隣へ、もう1本線を引いた。こっちへ回されたら、俺ならどうする。渡す前に相手へ話をするか。先に受け取ってしまった奴を使うか。
花巻が椅子を少し寄せた。2人のペン先が同じ丸へ向かい、ぶつかる。彼女が引っ込めた隙に、俺は数字を書き替えた。
「これなら、こいつは黙って見てない」
「誰かへ渡しますか?」
「たぶんな。でも、渡す先は――」
言いながら、俺は笑っていた。
分かっていて受け取る奴がいる。助けてもらったと思って、あとで気づく奴もいる。その場で相手の意図を読み、別の使い方を思いつく奴だっているはずだ。
6つの丸のどれに自分を置いても、まだ考えることがあった。
花巻は、俺の書いた線を1つずつ目で追っていた。そばの時のように一気に説明しようとはしない。時々、分からなくなったところを指で押さえ、そこから先だけを聞き直した。
俺も答えた。そのたびに、別の条件を思いついた。
紙が足りなくなった。
「裏、使っていいか?」
花巻の書類を指すと、彼女は慌てて鞄を開けた。
「白い紙もあります! 念のため、100枚持ってきました」
「そんなに要らねえよ」
3枚使った。
途中で金貨を札へ変え、やっぱり金貨へ戻した。花巻が装置の話を始めたので止め、受け取りを断る方法だけ聞いた。できると言うから、そこへもう1つ条件を足した。
ようやくペンを置く頃には、俺の昼飯から湯気が消えていた。
箸を入れると、そばがひとまとまりになって持ち上がった。花巻もそれを見た。何か言いかけた口を、そっと閉じる。
「お前のせいだからな」
「……はい」
「そばが好きなんだろ。責任持って、店でうまいの食わせろ」
「地元に、すごくいいお店があるんです!」
「近所にしろ」
花巻は笑った。来た時の、今にも泣きそうな顔とはずいぶん違っていた。俺が渡した紙を、角が折れないように揃えている。
「本当にありがとうございます。これなら会議に出せます」
「細かいところは、そっちで考えろよ。俺は、どんな装置が作れるかまでは知らないから」
「はい。そちらは任せてください」
そこだけは、少しも迷わない返事だった。
彼女が書類を鞄へ入れる間、俺は募集要項を表へ戻した。読もうとしていたゲームはまだ募集中だ。相談など受けず、こちらを先に読み終えていればよかった。
けれど、目はさっき描いた6つの丸へ戻った。
あの金貨を、自分なら最初に誰へ渡すだろう。
「玖城さん」
呼ばれて顔を上げると、花巻が玄関へ行きかけたところで立ち止まっていた。
「次は、自分で考えてきますね!」
「そうしろ」
「今日のお話、忘れません」
深々と頭を下げて、彼女は帰っていった。
俺は扉の鍵をかけ、居間へ戻った。伸びきったそばと、あちこちに線を引いた紙が残っている。思ったより時間を取られたが、これで次の企画会議とやらは何とかなるだろう。
椅子へ座り、箸を持った。
そこで、手が止まった。
次は、自分で考えてくる。
――来るのか。
────────── ここから付録 ──────────
企画メモ あなたの取り分
玖城朔と花巻こはるが食卓でまとめたゲーム案。以下は、本編に登場した金貨の受け渡しを、開催用の条件へ整理したもの。
ゲームの概要
6人の参加者は、それぞれ金貨10枚を持って始める。金貨は他人へ送れる。ただし、一度でも金貨を受け取った相手からの送金は、以後、拒否できなくなる。
3回の決算を行い、そのたびに、金貨の所持枚数が単独で最下位の参加者が死亡する。最下位が2人以上並んでいる場合は、その回の死亡者はいない。最後まで生き残った参加者は、残った金貨を1枚10万円で換金できる。
誰かへ金を渡せば、自分の取り分は減る。それでも渡したくなる理由がある。金をもらえば、所持枚数は増える。それでも受け取りたくない理由がある。
1回の進行
一 相談時間は7分。生存者全員の所持枚数を共通画面に表示する。交渉、同盟、口約束、嘘は自由。ただし、口約束を運営が強制的に実行することはない。
二 送金指定は1分。各自の端末から、生存している他の参加者1人と、送る枚数を秘密に指定する。送金しないことも選べる。枚数は1枚以上、その回の開始時に持っている枚数まで。その回に届く予定の金貨は使えない。指定は締切まで変更できるが、締切後は取り消せない。
三 受領判断は1分。すべての送金指定を締め切ってから、各受取人に、誰から何枚届くかを同時に知らせる。複数人から届いた場合、それぞれについて受領か拒否を選ぶ。未回答は拒否として扱う。ただし、すでに拒否できない関係の相手から届く分は自動受領となる。受領判断中は会話も連絡もできない。
四 決算。受領された送金だけを一斉に実行する。拒否された分は送り手の手元に残る。送金途中の一時的な残高では判定せず、すべての処理が終わったあとの所持枚数を比較する。
一度受け取った相手
AがBから1枚以上受け取ると、Aには「Bからの受領を拒否できない」という関係が記録される。この関係は次の回から有効となり、終了まで消えない。BがAからの送金を断れなくなるわけではない。方向は別々に扱う。
以後、BからAへの送金は、受領判断を待たず自動的に受領となる。枚数が大きすぎるという理由でも断れない。Bは送金を義務づけられてはいないので、Aを助け続ける必要もない。
受領拒否の権利は売買も譲渡もできない。別の相手を経由して届いた金貨は、最後に送った人から受け取ったものとして記録する。金貨の出どころと、拒否できなくなる相手が一致するとは限らない。
公開される情報
各回の開始時と決算後の所持枚数、敗退者、残りの回数は全員へ公開する。誰が誰へ何枚送ったか、誰が拒否したか、誰からの送金を断れなくなっているかは、該当する2人にだけ知らせる。
つまり、誰かの金貨が増えたことは分かる。しかし、誰が助けたのか、その人が今後も送金を断れるのかは、本人たちの言葉を信じるしかない。送り手には自分の送金が受領されたか拒否されたかを知らせるが、相手のほかの受領判断は知らせない。
敗退と終了
決算後、単独で最下位になった参加者の首輪が作動する。最下位が同数で並んだ場合、追加投票や抽選は行わず、全員が次の回へ進む。第3回でも同じ判定を適用し、その後にゲームを終了する。
敗退者の金貨は運営が回収する。生存者へ配り直さない。敗退者は次の回の送金先には指定できず、その人との受領関係も以後は機能しない。
全員が一切送金せず、10枚ずつ持ち続けることも合法。3回とも同数なら、6人全員が生還し、1人100万円を持って帰れる。必ず誰かを殺すための追加条件は設けない。金貨の偽造、端末への干渉、暴力による操作の強要は認めない。
このゲームで起こり得ること
例えば、第3回の開始時に4人が残り、所持枚数が8、8、12、12だったとする。全員が何もしなければ、8枚の2人は同率最下位なので、誰も死なない。
ところが、12枚の1人が8枚の片方に1枚だけ送り、受領されれば、所持枚数は9、8、11、12になる。ほかに送金が成立しなければ、何も受け取らなかった8枚の1人だけが死ぬ。
1枚をもらった人は助かった。しかし、その人が受領を断れない関係になっていたなら、隣の人を殺すために利用されたことになる。送った人は、自分の賞金を10万円減らして、決算の結果を変えた。
逆に、別の誰かが残る8枚の人へ1枚送れば、最下位を並ばせて死亡者をなくせるかもしれない。ただし、送金指定は他人の指定を見てから変更できない。誰が誰を助けるという約束を、本当に守るかが問題になる。
金を受け取らない人は、他人の道具にされにくい。そのかわり、自分だけが取り残される危険がある。金を配る人は、拒否されれば企みが崩れ、受領されれば自分の残高が減る。贈り物をする側にも、される側にも、同じ1枚をめぐる別々の思惑がある。
企画書の余白
〈全員生還を防ぐ条件を追加?〉
花巻の赤い字の横に、黒い字で一言だけ書かれている。
〈そのままでいい〉
企画書 わんこそば早食いゲーム
企画担当:花巻こはる
企画意図:地元の名産を全国へ! 次々におそばが追加される楽しさと、隣の人に負けたくない気持ちを、デスゲームでも味わっていただきたい。
参加人数:6人。指定の椅子に座り、爆発式首輪を装着。制限時間内に最も多く食べた方が優勝。
自慢の設備:椅子とテーブルの重量センサーで、おそばの減少量と体重の変化を照合。首輪ののど越しセンサーで飲み込みを確認。重量の検知精度は0.0001グラム。
禁止事項:立つ、隠す、他人に渡す、指定外の器を使う、蓋をする、こぼす。違反を検知した場合、首輪が作動。
実施結果:開始直後、全員失格。優勝者なし。
担当者の所見:「計測装置は正常に作動しました」
上司の意見:「装置は正常でも、企画は失敗です。次は、2杯目を出せるゲームを考えてください」