Sakusaku / 第124話

32: 悪戯っ子な後輩と声なき少女 2

 033 「へえ……榎本さんって合気道やってるんですか!? あ! 忘れてた……手話……使わないと……」  渋谷のあるカフェで……知り合ったばかりの二人の女の子が楽しそうに話し込んでいた…… 「ふふ……ルリ……カワさん……って……面白い……人ですね……」 「へえ……あ、来た来た」  二人が注文した飲み物が届いた…… 「お待たせして……申し訳ございません……今日はお客様が多くて……本当にすみません」  それを聞いたルリは、きょとんとした様子で尋ねた。 「え……これ、遅かったんですか……?」  そう言いながらユリカのほうを振り返ると、ユリカは首を横に振った。たいして遅くなかったという意味なのだろう。 「それとも私たち、話が盛り上がりすぎて時間忘れてたとか……?」 「はは……はははははは!」  二人は笑いが止まらなくなり、店員さんはどうしたらいいか分からない様子だった…… 「えっと……あの……」  店員さんの顔立ちはまだ幼く……夏休みのアルバイトの学生に違いない。だからこういう場面への対応に慣れていないのだろう。  店員さんの様子を見たユリカは、スマホを取り出してメッセージを書いた……  〔大丈夫です……お仕事お疲れ様です٩ (๑❛ᴗ❛๑) ۶ ファイトー〜〕  ユリカのメッセージを読んだ店員さんは、顔を赤くしてすぐに笑顔になった。 「あ……ありがとうございます……!」  ユリカは店員さんに手を振った。ルリはその光景を瞬きもせず見つめていた。  ユリカは首をかしげ、どうしてルリがそんなに見つめているのか不思議に思ったが、ルリはスマホをいじるふりをしてごまかした…… 「んー! 美味しい!」 「……んー……」  二人はそれぞれ自分の話をしながら、飲み物をちびちび飲んでいた…… 「そっか……お家は……道場……なんですね……」 「はい……私自身……両親から……次の……後継者に……なるよう……期待されてるんです……」 「そう……」  わずかではあったが、ユリカが道場の継承について話した瞬間、その表情が少し寂しげだったことにルリはすぐ気づいた……  この子……私と同じなんだ…… 「……」 「それじゃあ……つまり……ユリカさんは……大柄な男の人も……投げ飛ばせる……ってことですね……」  ユリカは一瞬呆気に取られた顔をしたが、すぐに気を取り直した。 「無理……ですよ……それは……映画の中……だけの……話です……」 「え……見てみたい……です……あなたが……悪者の……首根っこを……蹴り飛ばす……ところ……」 「あはは!!」  彼女は笑った…… 「やっ……笑わないで……ください!!」  ルリはとても恥ずかしくなり、照れ隠しに飲み物を飲んだ…… 「ルリ……カワ……さんって……本当に……面白い……人ですね……」 「ちょっと!……」  ルリの声が少し大きすぎたようで……店中の人が二人のほうを見た…… 「………あの……」 「………………」  二人は顔を見合わせ、それからお互いを指差した。 「彼女が悪いんです!」 「あ!!……」  店にいたカップルたちは二人に微笑みかけてきた……笑っている人もいて……  ユリカとルリはしばらく呆然としていた……  この二人はまったく気づいていなかった。店にいた全員がすっかり二人に見惚れていたことに……まったく……なんとも可愛らしい二人だ……  店中のそんな反応を見て、二人は顔を見合わせ、また笑い合った……  そして二人は店を出た。 「つまり……ルリ……カワさんは……家の……野菜運送会社を……継ぎたく……ないんですね……」 「はい……私……誰かに……あれこれ……指図されるのが……嫌いなんです……」 「……………」 「なんというか……小さい頃から……よく……両親に……あれもダメ……これもダメって……言われ続けてて……いつも……私の将来の……道を……勝手に決められて……」 「東京に……来てから……友達もできて……先輩にも……出会えて……すごく楽しかった……です……でも結局……私は……」  ルリの表情はとても暗かった……同じ境遇にあるユリカは、その気持ちがよく分かった。  だから彼女はルリの頭を優しく撫でた…… 「よしよし……」 「…………」  そしてすぐにメッセージを書いた…… 「大丈夫ですよ……あなたはちゃんと乗り越えてきたじゃないですか……ε=== (っ≧ω≦) っ」  ルリの心はすぐに軽くなった…… 「あの……その絵文字、女の子口説く時に使うやつですよ」 「あ!!! あああ!!!」 「はは!!」  自分がからかい返されたと気づいたユリカは、すぐに頬を膨らませて拗ねた。 「ふふ……可愛いなあ……」  二人はいつもの道を歩いていた……ユウタが二人が一緒に歩いているのを見ていることには、まったく気づかずに。 「どうしたの?」 「いや……別に……」  彼は今日もこっそりいつもの「レンタル彼女」とデートしていた…… 「あんたさぁ……こんな可愛い『彼女』がいるのに、まだ他の女に目移りするわけ?」 「え? してないって……」 「じゃあちょっとお仕置きしないとね……今すぐ水族館連れてって」 「ちょっと待てよ……ゲームセンター行くはずだったろ……」 「やだ……もう飽きた……早く連れてって……」 「はい……彼女様……」  ほとんど毎回こんな調子だった……  ユリカとルリは話しながら歩き続け、ある路地に入ってしまった……そこには不良が四人、タバコを吸いながら立っていた。 「あ……」 「ん?……」  不良たち四、五人は二人の女の子を見て、怖い顔をした。 「どこ行くの、お嬢さんたち……俺らと遊んでいったほうがいいって……」  不良漫画から抜け出てきたような、お決まりのセリフだった…… 「……すみません……道を間違えました……」  ルリはユリカの手を引いて立ち去ろうとしたが……不良たちに先回りされて行く手を塞がれた……  しかも四人のうち一人がナイフを取り出して脅してきた…… 「なあ……お嬢ちゃん、そのスカートの中のパンティー脱いでくれない?」 「そんなに長くはかからないって……一時間くらいだから」 「一時間って何だよ! 俺ら四人いるんだから四時間だろ」 「二人いるから二倍……つまり一日中、いや一晩中付き合ってもらうってことだな……へへ……」  ナイフを持った男はユリカの首元にナイフを突きつけ、スカートをめくろうとした。 「やめなさい!」  ルリはユリカに触ろうとする不良の手を払いのけたが、代わりに強く頬を叩かれた…… 「………うっ!!! うっ!!!!」  ユリカも相手に立ち向かおうとしたが、すぐに頬を叩き返された…… 「抵抗するなよ……助け呼んでみろよ……死体と一発やることになるだけだぜ……」  相手は平然とした顔でおぞましいことを口にした……その言葉を聞いて、残りの三人も笑い始めた……  ユリカに手を出そうとしていた男が、たまたま別の方向を向いた瞬間、ユリカは相手をつついた。 「ん?」  そして彼女は思い切り相手の顔を殴りつけた……不良の鼻はぐしゃりと折れた。 「ぎゃああああ!!!!」 「てめえ!……」  ナイフを持った男がユリカに切りつけようとしたが、彼女は華奢な手で相手の手首を叩き折り、ナイフは地面に落ちた……我に返ったルリはそのナイフを遠くへ蹴り飛ばした。  ユリカは二、三度跳ねると、ナイフを持っていた不良の顔めがけて蹴りを放ち、たった一撃で気絶させた……  彼女は立ち尽くす残り二人の不良を、本物の殺気を込めた目で睨みつけた……  不良の一人が左右を見回し、ルリを人質に取ろうとしたが、ユリカのほうが速かった。  彼女は走り出し、もう一人の不良の顔を殴った…… 「うおおおおお!!!!」  そして最後の不良を掴み、地面に思い切り叩きつけた。 「ぐえっ!!!!」  さらに相手を思い切り踏みつけた…… 「はぁはぁ……」  四人全員が気絶したことを確認すると、ユリカはすぐにルリのもとへ駆け寄った。 「あ……あ!!!!」  今は少し動揺していて、慌てすぎて手話がうまく使えなかった。でもルリは相手が何を言いたいのか、なんとなく察することができた。 「大丈夫です……私、怪我してませんから……」 「うっ!!! うっ!!!」  彼女は眉をひそめ、激しく首を横に振った。そしてルリに読んでもらうためのメモを書いた。 「ダメです!……傷口が感染したらどうするんですか! (≧Д≦)」 「…………」 「ふん!」  そして彼女はルリの背中を押して路地から連れ出した…… 「ど……どこ行くんですか、これ!!」 「うっ!! うっ!!」  たぶん、手当てしに行くという意味だろう。 「ありがとうございます……」  幸い、コンビニで救急セットが売られていたので、二人は近くの公園のベンチに座って手当てをすることにした…… 「うーん……」 「あの……榎本さん……」 「うん?」 「その……さっき助けてくれた時……あなた……かっこ……かっこよかったです!!」  それを聞いたユリカは、まるで満開の牡丹の花のように、満面の笑みを浮かべた……  彼女はまた手話を使った…… 「あなたが……私を……守ろうとしてくれた時も……かっこよかった……ですよ……」  二人はお互いに微笑み合った……そしてルリは、ユリカを彼女の家の道場まで送っていった……
実は、百合ジャンルでこういうキャラクターを書くのは今回が初めてなんです。皆さん、この百合カップリングは気に入っていただけましたか?正直なところ、この二人を思いついたのは高校生の頃だったんですが、実際に執筆に取り掛かったのは21歳になってからでした(笑)。

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