Sakusaku / 第102話

10: 昔の友人に会いに行きます……

 011 「よ……バルちゃん」  [あれ……誰かと思えば、お前か]  水曜日の朝、お客さんのところへ行く前に……学生時代の別の親友に電話をかけた。彼は少し変わったところがある……でも、性格が変わっているわけじゃない。 「お前はまた番号変えてるし……やっと繋がったと思ったら、西尾に頭下げて番号聞き出さないといけないんだから……」  [しょうがないだろ……俺の社会的立場上、同じ番号をずっと使うわけにはいかないんだよ]  そう……この友人、久志昴は、関東一帯に影響力を持つ久志組のトップだ。これほどの勢力を誇るのは、他の組がすべて消えてしまったからでもある。先ほど名前の出た西尾は、今は恋人のキヨミちゃんと二人で私立探偵をやっている後輩だ。なかなかかっこいいコンビだと思う。 「更屋敷のお嬢さんもそうだよ……まあいい……ところで車いっぱい持ってるだろ?……一台貸してくれないか……子どもたちをコミケに連れていこうと思って……」  [まあ、いいけど……お前、免許持ってるよな?……もし警察に止められて車の出所を調べられたら、生かしておけないからな……]  静かに人を脅すこの喋り方……まったく変わってないな。 「とっくに取ってるよ……心配しなくていい……それで、貸してくれるよな?……」  [ファミリーカーならあるけど……夕方に取りに来ればいいよ……] 「ああ……あと、忘れてた……十七日に、星野の結婚のお祝いを兼ねた集まりを家でやろうと思ってるんだ。できれば来てくれないか……」  [そうか……もう結婚式も近いな……旧友にもずいぶん会ってないし……あ、この!……リタ!……パパ、電話してるんだぞ!] 「え……」  [あ!アキトおじさん!!……うちに来るの!?] 「おお!リタちゃん……久しぶりだな……声を聞く限り、ずいぶん大きくなったみたいだな……ママは元気にしてるか?」  [うん!ママ、最近ずっとよくなってるよ……最近はみんなでピクニックにも行ったんだよ!!] 「いいなあ……おじさんも行きたかったなあ……」  少し電話を奪い合うような音がして……  [ごめんな……最近、毎日おじさんに会いたいって言ってるんだよ……] 「ああ……わかるよ、子どもってそういうもんだから……じゃあ夕方に行くよ……いろいろお願いすることもあるし……」  [うん……夕方にな……こら!……リタ……]  [またねー!!!!] 「ああ……また夕方に……」  電話を切った……真夏の空が今にも顔を焦がしそうなくらい照りつけている。当然、今日は母校の夏服に着替えていた。半袖シャツに左胸の小さなポケット、少し薄手の黒いスラックス。 「みんな、それぞれ幸せに暮らしてるんだな……」  菅原に会う前の自分なら、ため息をついてこう思っただろう。幸せを手にできないのは俺だけだ、と。  でも今は菅原がいる……俺が一番大切に思っている人が。消えていた幸せが、またゆっくりと戻ってきているような気がする。 「これからも……この幸せを守っていかないとな……」  夕方。和風の大邸宅。久志家。 「おじさん!!!」  玄関を開けるなり、リタちゃんが全力で飛びついてきた。 「ちょっと!ずいぶん背が伸びたな……前は膝くらいまでしかなかったのに……」 「リタ!!そんなふうにおじさんに飛びかかっちゃダメよ……」  リタちゃんは父親の言葉を一切無視した。肩によじ登って、そのままちょこんと座ってしまった。 「やったー!!背が高くなった!」 「ちょっと待て!……」 「なんの騒ぎよ……あら……どうしたのアキトくん」  淡い青色の髪をした、体の弱そうな女性がリビングから出てきた。 「よ、スミちゃん……具合はよくなった?」 「うん……」  彼女はバルちゃんの奥さん、久志澄だ。体があまり丈夫ではない……高校時代にバルちゃんの子を妊娠して退学することになったから。まだ若かったせいか、リタちゃんを産んでから体調が優れず、それからずっと入院生活が続いていた。  でも、こうして歩いて話しかけてくれる姿を見ると、素直に嬉しかった。 「車を借りに来たついでに……姪っ子と遊んでいこうかと思って……」 「やったー!」  リタちゃんの部屋へ向かおうとしたとき、組の構成員が片づけをしているのが見えた。 「前田さん……」  筋骨隆々の知人の若者に声をかけた。 「子どもの世話って楽しいですか?」  彼は何も言わず、中指を立てた……俺は笑いながら、リタちゃんの部屋へ上がった。  --- 「ね、おじさん!……一緒に踊ろうよ!」 「踊り?……おじさんはちょっと体がついていかないかも……」 「じゃあ踊ろ!」  バルちゃんが心配するのもわかる……若いパパは大変だな。リタちゃんがYouTubeでVTuberの動画を開いた。よくフィードに上がってくるミュージックビデオで……かなり有名な曲だろう。 「これ……ゲンキちゃんじゃないか……」 「おじさん、知ってるの!?」 「これだけ有名なVTuberを知らない人はいないよ……」 「さあさあ……構えて!……曲が始まるよ!」  俺は動画のリズムに合わせてぴったり踊ってみせた。リタちゃんは目を丸くして……負けじと踊り始めた。 「サビが来た……ここでおじさんに勝つよ!!」 「できるもんならやってみな……」 「~キュート キュート キュート!~みんな一緒に腰を振って!~キュート キュート キュート!~揺れて揺れてシェイク!~キュート キュート キュート!~わたしはダンスのプリンセス~いち……に……エレガント ドライブ!!!!!」  曲が終わった。 「はあ……はあ……信じられない……おじさんがあんなに上手いなんて……」 「当然だろ……でもリタちゃんも上手いよ……あんな早いサビを歌いながら踊れるなんて……」 「そうかな……」  二人で並んで話していたが……なんていうか……体のあちこちが痛い……俺まだ二十五なんだけどな。 「歌手になりたいの?」 「うん……ミュージックビデオを見るたびに、歌や踊りにすごく感動するの……かっこよく踊ってる人もたくさんいるし……だからずっと練習してるんだ」  歌いながら踊るというのはコンサート向きで、ミュージックビデオを撮るには踊りの練習が欠かせないわけだが…… 「ね、リタちゃんさ……これだけ頑張ってるんだから……おじさん的には、リタちゃんはすごいと思うよ」 「本当に!?」 「本当だよ……おじさんは、できてもいないのに褒めるタイプじゃないからな……知ってるだろ?」 「ありがとう!……もっと頑張るね……」  彼女は俺に笑いかけてくれた……踊り疲れていたのが嘘みたいに、さっぱり消えてしまったようだった。  遊び疲れた後、家の人たちと一緒に夕食を食べた。前の組長だったおじさんにも会えた。相変わらず優しかった。  それから車を取りに行ったのだが…… 「これが、お前んちのファミリーカーか……」 「そうだよ」  邸宅の玄関前に停まっていたのは、メルセデス・ベンツGLS……しかもMAYBACH 600、このシリーズで最も高い仕様だった。 「お前がヤクザだってこと、すっかり忘れてたよ……」  生きてきた中で高級車は何台も見てきたが……一度も運転したことはない。 「まあいい……どこかにぶつけなければそれでいい」 「ドアを開けるのも怖いんだけど……」  せっかく貸してくれたんだから乗るしかない。SUVだからファミリーカーとしては正しいが、内装はどう見てもファミリーカーではなかった。 「勘弁してくれ……エアコンをつけるくらいは許してくれよ……」  エンジンをかけるだけで体が固まった。 「またねー!!おじさん!!」 「おう!!時間ができたら遊びに来るよ!!」  そうして走り出した…… 「……ママ……」 「何?」 「ねえ、大きくなったら……アキトおじさんと結婚したいな……」 「はあ!?!?」 「ちょっと……パパをそうやっていじめないの……」 「だってパパをからかうの、楽しいんだもん……」 「ちょっと待て!!パパをそんなに驚かせるんじゃない!!!」
くそっ……祖母はいつも、貧しい家庭の子供たちを「お前なんかより何百万倍も立派だ」と持ち上げては、私が書いた小説を「ゴミ同然」とこき下ろしてばかりいた。でも、この物語が本として出版され――あわよくばアニメ化にでもなれば――その時こそ、今度は私が「あいつ」を見下してやる番だ。

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