SakuSaku / 第1話

私たちはただの友達…

 ◆◇◆ 「こんにちはおばさん……篠(しろ)はもう起きましたか?」  私は家の中の人を呼ぶために、チャイムを押した…… 「あら……アーちゃん、篠亜(しのあ)を起こしに来てくれない?もう何度呼んでも起きなくて……」  昔からの顔なじみのおばさんが、私を温かく迎えてくれた……  私は靴を脱いで、幼馴染の寝室に上がった……  そして、足で枕を蹴り飛ばしてベッドから落とした…… 「いい加減起きろ、このバカ犬!!!」 「うわっ!!! 勘弁してくれよパンダ! お前、頭おかしいんじゃないか!?」 「おばさんが何回起こしに来たと思ってるの……だから足で起こしてるんでしょ……」  私はもう一度足を振り上げた……篠亜(しのあ)は慌てて着替え始めた……  これが、私がいつも経験している日常だ……  こんにちは、皆さん……意外に思うかもしれないけど、私とこいつは幼馴染だ……私たちはずっと真逆の存在だった……性格も、趣味も、話し方も、ましてや名前だって……  私は女なのに……よりによって赤城(あかぎ)明(あきら)なんて名前で……  こいつは男なのに……よりによって篠原(しのはら)篠亜(しのあ)なんて名前で……  変な組み合わせだけど……私たち二人は、驚くほど気が合ってしまう……  だから時々…… 「ねえねえ……あの二人、可愛いよね……しかも男の子の方、すごくかっこいい……」 「だよね……付き合ってるのかな……」  篠亜(しのあ)は、結構なイケメンだ。長髪で、いかにもスポーツ万能な美男子といった見た目で、いつも女の子たちに囲まれている……そしてこいつの髪が白いせいで、私は彼のことを「篠(しろ)」と呼んでいる(子供の頃、家で飼っていた犬の名前だ)…… 「でも、あの女の子の方はちょっと怖いよね……」 「そうそう……髪も赤いし、まるでヤンキー女子みたいな格好してるし……」  でも一方で……私は、暗い文学少女で、口が悪くて、体つきも細くて……運動も社交も全然だめだ……つまり、篠(しろ)の完全な正反対というわけだ……  肩まで届く赤く染めた髪だけが、私を少し目立たせてくれる唯一のもの。小学生の頃、一度徹夜しすぎて目の下にクマができたとき、篠(しろ)はそれ以来ずっと私のことを「パンダ」と呼んでいる……  まったく……  ジロッ……私は駅前でこそこそ噂話をしていた女子生徒たちをにらんだ……彼女たちは私に気づくと、すぐさま逃げていった……  本当にうっとうしい連中……陰でこそこそ言うくらいなら、面と向かって言えばいいのに…… 「ほれ……」  篠(しろ)が冷たい缶ミルクを投げてよこした…… 「私がミルク飲んでないって、なんで分かったの?」 「さあ……勘かな?」  私たちは、まだ目も開いていないうちから一緒にいる仲だ……お互いの両親がとても親しくて、私たちも人一倍長く一緒に過ごしてきた…… 「あの!……」  すぐに、声をかけられた…… 「何?」  もちろん、女の子だった……見るからに真面目で可愛らしい子だった……  彼女は少し怖がるような様子で私を見た……私も見つめ返した…… 「あの……おはようございます!!」 「ああ……うん、おはよう……確か……あなた、A組の鏡(かがみ)さんだよね?」 「あっ……覚えててくれたんですか?」 「よくグラウンドの辺りをうろうろしてるの見かけるから……」 「そ、そうなんですか?……あの……実は私……」  彼女は一瞬私の顔をちらりと見ると、すぐに退散しようとした…… 「……あの……ちょっと飲み物買いに行きますね……また後で……」 「ちょっと待って!」  篠(しろ)が引き止めようとしたけれど……彼女はそのまま行ってしまった…… 「なんか仲良さそうだったね……」 「知り合ったばかりだけど……分かんないけど、いい子っぽいよな……」 「彼女にしたら?」  篠(しろ)はすぐに顔を赤くした…… 「バカ言うな!?……女子とまともに話せたことなんてないっての……」 「まだまだだね……その顔でも活かしなよ」  私は指で彼の頬をつついた……彼はそれを振り払った…… 「……ふん」  ◆◇◆  電車に乗って……私たちの学校はかなり遠いので、しばらくすると会社員の人たちの多くが降りていき、車両には私たち生徒だけが残ることになる……  車両はほとんど空っぽになっていた…… 「ねえねえ……さっき見た?」 「見た見た……鏡(かがみ)さん、赤城(あかぎ)さんに睨まれてたよね」  またか? 「まあ気持ちは分かるけどね……あんなかっこいい彼氏がいたら、独占欲も出るよね……」  もう耐えられない…… 「あら?パンダ、どこ行くの?」 「急用」  私はつかつかと、その女子生徒たちの方へ歩いて行った 「何かお困りですか?」  私は「笑顔」を浮かべて、彼女たちに声をかけた 「べ……別に何もないです!」 「本当に何でもないんです……」 「そう、それならよかった……」  私は戻ってきた……二人はかなり震えているようだった。きっと私に目をつけられるのが怖かったのだろう……  なんでみんな、こんな反応をするんだろう……私と篠(しろ)が付き合ってるって、勝手に思い込んで……  こいつはただの友達だ……そして、それ以上には絶対にならない……  異性の友達がいるって、そんなに悪いことなのかな…… 「用事、早かったね……」 「麻薬売ってきた」  私が冗談を言うと、篠(しろ)は私のボケに苦笑いを浮かべた…… 「じゃあお前が捕まったら、ソウル・グッドマンにでも電話してやろうか?困ったらソウルに相談だろ……」  私たちは少し笑い合った……  私たち二人はいつもこんな感じだ……いつだって、とことん気が合う……  ◆◇◆  放課後……  私と篠(しろ)はクラスが違うので、放課後よくこいつのいるグラウンドまで歩いていく。一緒に帰りたいから、それだけだ。それに、彼が一緒だと安心する気がして、それで一緒に帰りたくなる……  篠(しろ)は女子たちに大人気の陸上部のエースだ……グラウンドの外で応援する人がいても、別に不思議ではない……  私はいつもの場所に座って……本を取り出して読みながら……こいつが部活を終えるのを待っていた……  男子を呼ぶ黄色い歓声は、もはや私にとってのBGMのようなものだ…… 「もう、やだ……恥ずかしいって……」  私が座っている場所の近くに、女子生徒が二、三人立って話していた…… 「今行かなかったら、いつ行くのよ?」 「うーん……頑張ってみる……」  私はちらりとその子たちを見た……そして見覚えのある顔を見つけた……  鏡(かがみ)さんだ……  声をかけようかな……いや、やめとこう。変に怖がられるだけだし……本を読み続けよう……  しばらくすると、部員たちが休憩に入った……女子たちは急いで写真を撮ったり、名前を呼んだり……  陸上部にはかっこいい人がたくさんいるけど……一番人気なのは、他でもない……  休憩に入った篠(しろ)が私を見つけて手を振ってきた……女子たちはそれを自分たちに向けたものだと勘違いして、大歓声を上げた……  それを見た私は、小さく手を振り返した……  そして、思いがけないことが起こった…… 「あれ誰?」 「え?……篠亜(しのあ)くんに飲み物渡してる……しかも受け取ってる!」  なんだか、面倒なことになりそうな予感…… 「うわ、まずいな……」  見たところ、鏡(かがみ)さんは篠(しろ)に飲み物を買ってあげたようだ……うん……お似合いだな……  二人はとても長く話し込んでいた……周りの女子たちは、それぞれ嫉妬に燃えているようだった……  もう、帰ろう……  私は急いでその場を離れた……このままいたら、また気分が悪くなりそうだったから……そして、校舎裏のベンチで篠(しろ)を待つことにした…… 「はあ……」  さっき、危うく間に合わなくなるところだった…… 「でもさっきの鏡(かがみ)さん……」  彼女はずいぶん長く篠(しろ)と話していた……しかもこいつ、なんだか妙に照れていたような……  もしかしたら……彼女、告白したのかもしれない…… 「あっ……ちょっと待って……」  なんで……こんな風に、胸がおかしいくらいドキドキしてるんだろう……  なんで、私…… 「パンダ……」  そして篠(しろ)が私の隣に立った……でも今日はいつもと違った……鏡(かがみ)さんも一緒に、腕を組んで立っていたのだ…… 「あら?……練習終わるの早かったね……」 「今日は早めに終わったんだ……帰ろうか……」  私は立ち上がった……そして、あることに気づいた……  二人は手をつないでいて……しかも、とても親しげに話していた…… 「私、何か見逃したかな?……」  二人は顔を見合わせて……そして微笑み合った…… 「あのね……私たち……」 「付き合うことになったんだ……」  私は二人の顔を見ながら、軽く頷いた…… 「そうなんだ……すごいね鏡(かがみ)さん、そしてやっと、私と篠(しろ)がただの友達だって分かってくれる人が一人増えたわけだ……」  鏡(かがみ)さんが私の横に並んで歩いてきた…… 「えへへ……ごめんなさい……でも赤城(あかぎ)さんって、本当にいい友達なんですね……ずっと誤解しててごめんなさい……」 「大丈夫だよ」  私たち二人は微笑み合った……そしていつも通り、一緒に帰り道を歩いた……  でも、いつもとは少し違っていた……  私は篠(しろ)に別れを告げた……でも今日は、篠(しろ)は一人で帰るわけじゃなかった……  私はその光景を、もう一度見つめた……  あれ?……雨、降ってるのかな……  空を見上げても、雨は降っていない……  じゃあ……この水は、どこから来たんだろう……  手を空に伸ばしてみても……何も落ちてこない……  あ……  あ……………  私……  なんで……こんなに胸が痛いんだろう……さっきベンチに座っていたときと同じように……  どうやっても……この痛みは消えない……  あ……………  分かった……  この落ちてくる水は……雨じゃない……  私自身の涙なんだ…… 「違う……篠(しろ)はただの友達だから……」  ただの友達……  彼は、私のただの友達……  それ以上には、絶対になれない……  あ………… 「私、本当にバカだな……」

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