エナジーコット(@EnergyCotton) / 第13話

第13話 資質

 すでに陽が沈みきる直前、本日の仕事に区切りをつけたセドリックは部下たちを帰しており、部屋にはエドワードと自分しかいない。自分たちも終わらせようと思ったその時、ノックの音が響いた。 「旦那様、カークです。お話がございます」 「入れ」  入室の許可を出すとカークはアレンを連れてやってきた。  カークとアレンの組み合わせ……。高い確率でサミュエルに関することだろうと察しが付く。  本日すでに魔石の取引で驚かされたばかりだが、早速なにかやらかしたのかとサミュエルのことを心配した。 「今回はどうした」 「ご報告いたします。サミュエル坊ちゃまが魔術具を修理してみせました」  一瞬の静寂が訪れた。 「すまない、もう一度言ってくれないか?」  エドワードが念のためもう一度確認をとる。 「はい、サミュエル坊ちゃまが魔術具を修理して再び使えるようにしました」  言葉は理解できるが、意味を理解するのに時間が必要だった。  奇しくも、セドリックとエドワードの二人は、サミュエルから修理ができたと聞かされたカークと同じ思いを抱いていた。 「それはあれか?故障していた魔術具を、サミュエルが、修理して、使えるようにした。と」  自分の理解が間違いがないか、一言ずつしっかりと、自分にも言い聞かせるようにセドリックは発言した。 「左様でございます」  ふーっと一息をつく。そして指でトントンと机を叩く。続けろという合図だ。 「坊ちゃまは本日入手した魔術技師の本に記載されていた、魔石から作る魔術インクなるものを作りました。そしてその魔術インクを使い、故障した魔術具の修理を3時間以上かけて行っております。私にはなにをしてるかその時理解できてませんでしたが、危険はないため見守るだけに留めておりました。そして坊ちゃまは『できた』といい、尋ねると修理ができたとのことでした」 「なるほど、それでアレンがいるんだね」  エドワードは自分の従者がカークと共に入室してきたことに納得した。 「はい、安全のために庭でアレンに修理したという魔術具を使ってもらいました。私が見る限りでは問題なく魔術具は発動しました。あとはアレンから説明をお願いします」  カークは魔術具の実際に使ったアレンに説明を任せた。 「こちらが坊ちゃまが修理された魔術具です。使ってもよろしいでしょうか?」 「問題はなかったんだろう?使ってみてくれ」  セドリックが許可を出すと、アレンは「では……」と言い、魔術具を発動させた。  わずかに遅れて魔術具が発動した。薄暗くなった部屋を魔術具が光で照らす。 「たしかにその形の魔術具は今使っているデザインより前のものだ。しかも明るさも申し分ない……」  本当に魔術具が修理されたものだと実感する。 「私たちは魔術が使えないからわからないが、魔術が使える者として使用感はどうなんだい?」 「率直な意見を申し上げれば、発動させるとき若干引っかかりというか、なにかが詰まったような感覚がします。ですが少し強めに流すと解消されていつも通り発動できます。坊ちゃまはすでに心当たりがあるようですが私にはわかりかねます」  それを聞いたセドリックは椅子に深く沈み込み、わずかの時間思案する。 「アレンよ、これよりサミュエルが修理した魔術具の発動は貴様が最初に行え。もしそれで怪我した場合、治癒具を使うこと許可する。仕事で手が空いてなくとも他のものに任せてサミュエルの件を優先しろ。よいな、エドワード」 「ええ、それがいいでしょう。安全のために最初に使うのはサミュエル以外がいいと思いますから。あ、アレンなら怪我をしてもいいというわけじゃないからそこは勘違いしないように」 「承知いたしました。最初に魔術具を使わせていただける栄誉、承りました」  エドワードは一つ気になったことを尋ねる。 「ところでアレン、その魔術具の修理というのは魔術を使える者ならできることなのかい?」 「私はやったことがないので正確にお答えはできません。憶測でよろしければ」 「それでいい、どうなんだい?」 「魔術技師の本に魔術インクの作り方が書かれておりましたが、それ自体は難しくありません。ただ修理となるとどこに問題があって、どうすれば直るかを理解してなければなりません。普通の魔術使いは魔術具をわざわざ分解して調べようとはしません。専門の知識がないとわからず、魔術技師の知識がなくてもほとんどの者は生活に困らないからです」  セドリックはそれをきいて「ふむ」相槌を打つ。 「平民であれば魔術具に触れる機会が少なく魔術技師を目指すことはまずありません。貴族であればそもそも魔術技師を目指す必要がありません。もしかしたら貴族出身の魔術師の方なら基礎的な修理はできるかもしれません」 「つまり、出来ないではなく、やる必要もやる機会がない。だから専門家以外にやる者がいないということかい?」 「ご認識のとおりかと。あくまで私の憶測ではありますが」 「なるほど、ありがとうアレン。私からは以上だ。父上からはなにかありますか?」 「私からは特にない。では以上だ。サミュエルには、修理した品を使う際は最初に必ずアレンを呼ぶよう私のほうから言い聞かせておく」 「かしこまりました」 「他に無ければ下がってよい」  セドリックがそう言うとカークとアレンは部屋から退室した。 「またサミュエルか……。魔術を始めてから驚かされっぱなしだな」 「昼も魔石の取引で驚かされましたからね」 「しかし修理か……、サミュエルがやる気を出しているなら好きなだけ修理させた方がいいと儂は考えておる」  セドリックは今の報告を聞き、エドワードと考えを共有することにした。 「そうですね。使えなくなった魔術具の価値が戻ります。それを行商人に売ってもいいですし、予備として保管しておいてもいいですね。それにサミュエルの将来のためにもなります」 「あの子は魔術より魔術具を触ってる方が楽しそうだからな。そっちの道を目指すなら応援してやろう。結果的に我が家の利益にもなるなら万々歳だ」 「代わりといってはなんですが、少しずつ触れてもいい魔術具を増やしてやってもいいかもしれませんね。そのあたりはアレンと相談して私のほうが決めますね」 「そうしてくれ。しかし本当に驚いたな」 「もう少し貴族らしく育ってほしいとは思いますが、これはこれでいいのかもしれませんね」 「所詮は辺境の男爵家だからな。跡継ぎでもないのならそれもよかろう」  そう言うと二人は本日の仕事を終え、部屋を退室した。

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