エナジーコット(@EnergyCotton) / 第23話

第23話 初めての旅行(5歳)

 数日後、サミュエルは両親や姉と一緒に辺境伯の領都へ向かうことになった。  エドワードとしてはあまり外に目を向けないサミュエルが自ら町に足を運んだという話を聞き、これを機に広い世界を見せて見聞を広めさせたいという親心であった。  マイケルも行きたがっていたが、マイケルは置いていくことにした。すでに十歳式も終えたため、エドワードの仕事を一部引き継ぎ、祖父母の助けを借りながら領地の仕事を覚えさせようとしていた。また、マイケルは当主や、次期当主、さらにその次の当主と挨拶が必要だが、今回は当主とその傍流の親子のため、必ずしも出なければならないというわけでもなかった。  そうして内心では嫌がっていたサミュエルだが、強制的に連行されることとなった。  嫌な理由はいくつかある。  1つ目は馬車で10日の旅のため手持ち無沙汰。  2つ目は研究室で魔術具の研究を続けたい。  3つ目は人が多いであろう領都に行きたくない。  4つ目は偉い人と顔合わせするのが緊張する。  といった内容であった。  しかしセドリックも「どうせあの子は工作室に籠ってばかりだ。たまには外の世界を見せてやれ」といってエドワードの意見に賛同していた。こうなると嫌だと言っても通じないため大人しく連れて行かれることにした。  そうして馬車に揺られること10日、マルシュナト辺境伯領の領都マルシュブルグに到着した。辺境という土地柄からか、町は堅牢な城壁に囲まれた城塞都市となっていた。さすが領都というだけあって規模がヴァロワール領の町とは段違いだった。城門を潜ると、人の気配と密度が肌で感じられた。  行き交う人々の中には、ヴァロンでは見かけないような背丈の低い頑丈な者や、耳の少し長い者の姿も見える。 (あれってまさか、ドワーフとかエルフってやつじゃないのか?)  前世で見た小説に多く登場する種族を思い出す。確認のためにエドワードに質問をすることにした。 「お父様、あの人達は僕たちとは違うんですか?」 「ああ、耳が尖っているのがエルフ、背丈が低くてがっしりした身体のはドワーフと呼ばれている。私たち人族より寿命が長い、その代わり数が少ないからこれほど大きな街でもなければ見かける機会は少ないな」 (やっぱりエルフやドワーフだったんだ!)  魔術、魔術具に続いて異世界らしい要素を目にしてサミュエルは内心喜んだ。 「ほかにもハーフリングという種族もいる。マイケルぐらいの背丈で大人になる種族だ。……ああ、ちょうどあそこを歩いているな」  馬車の小窓から見えた子どものような人をエドワードがサミュエルに教える。 「彼らの種族には見た目以外にもそれぞれ特徴がある。エルフは魔術が得意だし、ドワーフは鍛冶、ハーフリングは装飾品や商売が得意だ」  さすがは多くの商人や職人が集まる領都なのだろう。ヴァロンでは見ることのできない光景ばかりだった。  城壁内の宿に到着すると護衛の一人が報せを持って辺境伯家へと向かう。  明日には辺境伯家で両家の顔合わせをする予定である。 「明日まで時間ができたな。せっかくだから私とサム、レベッカとミシェで別れて領都内を見て回ろうか。それぞれ見て回りたいものがあるだろうからな」  家族団らんで行動するのもいいが、時間は有限。明日必要なものもあるかもしれないため男女で別れて見て回ったほうがいいとエドワードは判断した。 「そうですね。私はミシェのために使えそうな物を一緒に見てまわります。あなたはサムと一緒に楽しんできてください」  そういってそれぞれが護衛を引き連れ宿を出た。 「こうやってサムと二人だけで歩くのは初めてだな。どこか行きたい場所はあるか?」  宿に籠っていたい、と言いたかったがそうもいかない。それにどうせそれも暇である。 「えっと……。それなら本屋か魔術具の店を見てみたいです」  エドワードは苦笑した。だがサミュエルならそう言うだろうなとも納得した。 「わかった。宿の人に確認をとってきてくれ」  護衛の者が宿屋の人間に場所を聞きに行った。 「確認してきました。本屋の場所はわかりましたが、魔術具の店はわからないとのことです」 「魔術具自体買える人が少ないからな。もしかしたらこの規模の街でも店を構えていないのかもしれないな。すまないサム、今日は本屋だけでいいか?」 「はい、大丈夫です」  そう言うとエドワードは笑顔でサミュエルの頭を撫でた。 「いい子だ。それでは我々も行こうか」  そう言って宿を出て、護衛が本屋まで先導し、店に到着した。   「サムはどういった本が見たいんだ?魔術具関連の本かい?」 「そうですね」 「店主、魔術具関連の本はどこかな?」 「それなら奥にありますよ」  そう言われ、教えられた場所を見ると、わずかに魔術具の本があった。 「あんまりないね」 「坊や、魔術具の本はそこまで需要ないんだよ。魔術具を紹介している本は貴族か羽振りのいい商家にしか欲しがらないし、大体は直接商人とやり取りしてしまってる。こにあるのは何年も前の古い魔術具が載っている本だからね。魔術技師のための本も同じさ。なる人が少ないからそもそも本自体が少ない」  そう言われてみると興味を惹かれたのはこの3冊だった。 「サミュエル、せっかく来たんだ。どれか欲しいのがあれば買ってやるぞ」 「ならこの3冊欲しいです!」 「……すまないサミュエル。本はお前が思ってる以上に高価なんだ。1冊に絞ってくれないか?」 「……わかりました」  そう言うと3冊とも手に取って中を見る。  ・現行魔術具図録 第八版   以前見た図録よりもさらに古い魔術具が載っている。  ・術式構築論   術式を構造的・学問的に解き明かし、魔術具に使われている効果的な組み合わせが記されている。  ・魔術技師実践録   魔術技師として歩み始めた者が残した日記や随筆の類。  この中なら術式構築論が一番面白そうだ。自分の知らない術式や組み合わせなどが書かれていて勉強になる。 「お父様、これにします」 「すまない店主。これをくれ」 「ありがとさん。坊主、いいお父さんを持ったな」 「うん。ありがとうございます。お父様」  売れ行きの悪い本を子どもの希望で買ってくれた客へのリップサービスなのだろう。それでもサミュエルにとって、エドワードは本当にいい父親だった。  宿に帰ってから読むのが楽しみだ。

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳