エナジーコット(@EnergyCotton) / 第11話

第11話 魔石(4歳)

 初めて魔術具の術式を見た日から1ヶ月以上が経過していた。  故障している同じ魔術具と見比べたりし、見識は深まったが1種類の魔術具を見ているだけでは予測の域を超えず、研究は行き詰まっていた。  そんなある日、セドリックから朗報が届いた。 「サミュエル、以前希望していた魔術具の勉強のための本が届いたぞ。カークからも最近行き詰まっていると聞いている。これで精進するように」 「お祖父様、ありがとうございます!」  魔術具の本……昔居た著名な魔術技師が書いたという、魔術技師になるための本だという。これに魔術具の基礎が書かれており、それをわざわざ辺境伯領の領都にある店から取り寄せてくれたという。  部屋に戻ると早速本を開く。それは予想していたことの答え合わせともいえる瞬間であった。  ・魔術具の魔術式は特殊なインクで書かなければならない。  ・このインクは魔物から取れる魔石を粉末にし、既存のインクに溶かしたものである。それにより魔力を帯びたインクを作ることができる。これを魔術インクという。  ・魔石であれば魔石の品質自体に関係はない。  やはりあのインクは特殊な方法で作られていた。まだ魔物は見たことはないがヴァロワール男爵領では珍しくないと聞いたことがある。なぜなら魔物が生息する領域と隣接しているからだ。魔物の領域を少しでも開拓していくのが現在の男爵領の役割の一つにもなっている。  そして魔石……これは魔物と言われる生物が体内に精製している石である。すべての魔物は心臓のあたりに魔石があると言われている。これは魔力が心臓あたりに力を感じることに関係があるのかもしれない。だが人間に魔石があるという話は聞いたことがない。 (やはりあれ特殊なインクだったんだ。家にあるインクに魔力を流してもなにも変化がなかったしね。ただ魔石はどうやって手に入れるか……。) 「ねえカーク、魔石っていくらぐらいするの?」 「そうですね。一部の物を除いて値段はつけられてないかと思われます。利用価値はありませんが、領内の兵士たちが任務や訓練で魔物を倒したときに討伐の証明として必ず持ち帰るのですが、特になにかに使われるということがありません」 「じゃあそれはそのあと魔石はどうしてるの?」 「申し訳ございません。私もそこまでは存じ上げておりません」  現在、魔石の価値は高くない。大型のものは強力な魔物から出ることもあり希少価値が高く、装飾品になるが、弱い魔物から出る小型の魔石はほとんど需要がなかった。  また魔術師が使う杖に魔石を利用することで威力が上がるが、利用者は少なくこれも魔石の品質に影響されないとされている。 「じゃあ兵士の駐屯地にあるかもしれないね。売って貰いに行こう」 「まさか坊っちゃん自ら行く予定ですか?」 「うん、もちろん」  普段のサミュエルであれば、必要なものとは言え知らない人と交渉をしにいくなんて言わない。しかし行き詰まってたものが少しずつ解消されつつあり、サミュエルは興奮していた。 「お待ちください。旦那様とお父上に許可が必要です。すぐに確認してまいりますのでしばしお待ちを」 「わかった。お願いね」  そう言い、カークは部屋を出ていった。サミュエルは本を読むのを再開した。  ---------- 「お待たせ坊ちゃま。旦那様とお父上から許可が出ました。『ただし私と護衛の指示には従うこと。』との仰せです」 「うん、わかったよ。よろしくね」  カークと他にアレンと兵士2名が護衛として就くことになった。 「あ、売って貰うつもりだけどお金はどうしようか……」 「ご安心ください、旦那様から預かっております」  サミュエルは抜かりのない使用人に感謝した。  そうして屋敷を出て兵士の駐屯地に向かうことになった。  兵士の駐屯地はこの町の出入り口近くにある。  帰りに荷物を抱えることになるかもしれないため、馬車を利用することになった。  ----------  初めて乗った馬車は乗り心地が最悪だった。下手に喋ると舌を噛みそうなぐらいに揺れていたので口下手なサミュエルでなくとも喋る人はいなかった。  そうして駐屯地に着くと、責任者を呼びだす。 「これはこれは、男爵家の方がこのような場所に如何なる用で?」  突然の領主の息子の来訪に責任者の守備隊長は驚く。 「楽にしていいよ。今日は話したいことがあるんだ」  相手は家族でも使用人でもない大人だが平民であり、こちらは貴族。舐められた態度を取られるわけにはいかないため謙ることはしない。 「どういったことでしょうか?日々真面目に仕事に取り組んでいるのでなにか罰を受けるようなことはしておりませんが」  貴族の人間が急にやってくるならいい事とは思えない。こんな場所にくるのなら兵士の誰かがなにかやらかしたのではと守備隊長は冷や汗をかいていた。 「周辺に出る魔物を狩ってるんだよね?」 「はい、街道警備や近くの森に魔物がでるため、訓練も兼ねてよく狩りに行っています」 「ならそれで手に入れた魔石があれば売って欲しい」 「はあ……。いえ失礼しました。魔石ですか。確かにありますが……」 「なにか問題でもあるのか?」 「いいえ、ございません。むしろ溜まっていく一方でどうしたものかと困っていたぐらいです。かといって証明のためにも必要ですし、そのまま捨てるというわけにもいかないので。必要とあればすぐにお持ちいたします」  使い道のない魔石を売ってほしいと言ったことに困惑したようだった。  あんなものに金を出す人間がいるのかと。 「いいや、献上は不要だ。カーク」 「はい」  そういってカークはサミュエルに袋を渡す。  その袋をサミュエルから守備隊長に渡した。  受け取った守備隊長は袋にたしかな重みを感じた。 「中を見てもいいですか?」 「いいよ」 「!?……こんなにですか!?」  サミュエルは中身を知らないが驚くぐらいの金額があったようだ。 「構わないよ。これは魔石の購入代金ではないよ。えっと……男爵家として、みんなの働きへの謝礼だよ」  守備隊長はその言葉に感激した。 「承知しました!その任務、確かに承りました!」 「じゃあ魔石を馬車に積んでもらっていいかな?」 「はい!すぐにお持ちします!」  ----------  そうして魔石を積み終わった馬車は駐屯地から屋敷に帰ることとなった。 「お前ら!今日は仕事が終わった奴らから飲みに行っていいぞ!代金は俺が持ってやる!」 「俺じゃなくて、男爵様のお金でしょ!」 「今日は好きなだけ飲んでいいんですか!?」  そんな声が駐屯地のほうから聞こえてきた。  一連の流れを見ていたアレンは感心した。  要らない物で、邪魔で困っている物だから無料でいいと言った物に金を出した。  それだけなら物の価値がわからない人間であったり、押し付けるだけなら見栄っ張りなだけの可能性がある。  しかしサミュエルは「魔石ではなく、兵士たちの働きに価値がある」と言ってくれたのだ。  仕事として当たり前だと思ってやっていたことを、認めてくれたからこそ、兵士たちはあれだけ喜んだのだろう。  兵士たちと同じ平民のアレンにとってそれは驚くべきことであり、兵士たちが少し羨ましいとも感じてしまった。  この日を境に、アレンの中でサミュエルを見る目は確かに変わっていった。

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