エナジーコット(@EnergyCotton) / 第8話

第8話 孫からのお願い(4歳)

 サミュエルは魔術具を知った次の日から魔術具のことを調べ始めた。  しかし屋敷には魔術の入門書の他に、魔術が使えるようになったマイケルのために用意したと思われる、初級の魔術書と中級の魔術書しかなかった。  魔術具のことを知りたいが、その術がない。  入門書は魔術にまつわる基礎的な知識が書かれているだけであり、魔術具に関しても「そういったものがある」程度でしか記載がないのだ。  つまり魔術具のことを知る方法は、いま思いつく限り2つ。  魔術具に関する本を読むこと。  そして実物の魔術具を手に取って触れることだ。  前者に関しては祖父にお願いしてみよう。  後者に関しても祖父に我が家に魔術具がないか教えてもらい、触っていいなら許可をもらいたい。  結局まずは祖父に確認し、交渉する必要があるということだ。 (……交渉かあ、俺にまともにできるかな……)  コミュニケーション能力が低く、前世でも他人との会話といえば事務的なものばかりだった。そんな人間にとって、祖父相手とはいえ交渉は億劫だった。 (だけどここでやらなきゃなにも進めない。魔術師になる道もあるかもだけど自分のやりたいことが見つかりつつあるんだ) 「カーク、お祖父様にお願いがあるんだけど、いまから大丈夫かな?」 「今であれば旦那様に来客の予定はございません。坊ちゃまからお話したいことがあるといえば時間を作っていただけるかと思われます」 「ありがとう、じゃあいまから行きたいから連れて行って」 「かしこまりました」  世話役兼教育係のカークに祖父の予定を確認、取り次いでもらうようお願いした上で、祖父と父がいる執務室まで向かう。  先にカークが入室し、用件と時間が作れないかを確認してもらう。  問題はないが別室で話を聞くとのことで、そちらの部屋にカークがサミュエルを連れて行く。  部屋に入って待っていると、別の扉からセドリックとエドワードが入室してきた。 「待たせたな。サミュエルから話があるというがどうした?」  サミュエルはゴクリと生唾を飲み込む。 「お祖父様、お願いがあります」 「なんだ?」 「魔術具の本が欲しいです!」  サミュエルの要求に祖父と父が合わせて顔を見合わせる。この子はなにを言っているんだという顔をしたが、すぐに昨日の劇のことを思い出したような表情になった。 「魔術具の本?ああ、昨日の劇を見て魔術具に興味を持ったのか。だが魔術具は高いから買えないぞ」  今度はサミュエルが言葉の意味を理解していなかった。魔術具の本を求めたが何故か魔術具を買う話になっている。 「い、いえ、その、魔術具が欲しいわけじゃなく……いえ良いのがあれば欲しいですが今回はそうじゃなくて……」 「ならなぜ魔術具が載っている本が欲しいと言うのだ?あれは魔術具を買うための本だろう?」  サミュエルは理解した。自分が言葉足らずのため、「魔術具を勉強するための本」、ではなく魔術具が欲しいから「魔術具が載っているカタログ本」が欲しいと思われてしまったようだ。 「ち、違います。僕が欲しいのは、魔術具を勉強できる本です!」  しっかり否定した上で目的の内容を告げる。 「でも……いろんな魔術具が載っているなら、それも少し見てみたいです」  それでようやく自分達が間違えていたことに二人は気づく。 「勉強のための本か。それならいいぞ。少し時間はかかるが取り寄せておこう」 「ありがとうございます」 「魔術具の本だが……昔商人から献上されたものがあったな」  セドリックがエドワードに話を振る。 「ええ、辺境伯領とその寄子を行商している商人が、サミュエルが生まれる前に新しい魔術具はどうかといい、扱ってる魔術具が載っている本を渡してきましたね。ただあのとき調子の悪い魔術具の交換でいくつか買ったのを覚えています。今は特に使うこともなく蔵書に眠っているはずです」 「ではそれもサミュエルに渡そう。ただしそこに欲しいのがあっても買ってはやらないからな。玩具ではないからな」 「あ、ありがとうございます!あともう一つお願いがあって……」  すんなり認められたため、続けてお願いをする。ただこちらは先程の反応から難しいかもしれない。 「お家にある魔術具を触ってみたいと思って……」 「それは許可できん。もう少し大きくなればいくつか許してやれるが、子どもが触って壊しでもすれば大変なことになる。壊れ方次第ではサミュエルが怪我をしてしまうかもしれんからな」  やはりこちらは許可されなかった。だがいままでのやり取りで一つ思い当たることができた。 「で、ではさっき話に出てた調子の悪くて使ってない魔術具やもう壊れている魔術具は駄目ですか?」  サミュエルは魔術具を使いたいわけではない。魔術具を知りたいのだ。ならばすでに故障済みのものでも問題ない。むしろそっちのほうが都合がいいかもしれない。 「それならいいぞ、魔術具の管理はエドワードの従者が管理していたな?」 「ええ、その者に案内と説明をさせましょうか」 「そうしてくれ。カークも一緒にサミュエルに付いていってやってくれ」 「かしこまりました」 「あ、ありがとうございます。お祖父様、お父様」  サミュエルはお礼を言うと、やってきたエドワードの従者とカークに連れられて部屋を出ていった。 「サミュエルが欲しいと言ったのがまさか魔術具の教本とは。普段はわがままや欲しいものを言わない子だから驚きましたよ」 「そうだな。手のかからない子ではあるからな。だが昨日のサミュエルを見てなかったのか?」 「ミシェルに掛かりっきりであまり見てやれてませんでした。昨日なにが?劇がどうのと言ってましたが」  セドリックに指摘され、エドワードは昨日あまりサミュエルを見てやれてなかったことに気づく。 「なに、劇の最中はそれほど興味を示しておらんかった。だがドラゴンが飛び回り始めると、目を輝かせて見ておった。なんでだと思う?」 「普通であればドラゴンが飛び回り、騎士が戦うのに憧れたとかだと思いますが……、そう聞くのであれば別のこと……魔術具の話だったので、ドラゴンが飛び回っている魔術具に興味を持ったのでしょうか?」 「その通り。最初は儂に、なんでドラゴンが飛んでおるのか、そういった魔術でもあるのかと聞いてきおった。それに対して儂は『そういう魔術具がある』とだけ教えてやったのだ」 「まさかそれで魔術具に興味を持ったと?なんというか我が子ながら少し変わってますね」 「そうだな。お前が言ったように普通の子どもなら戦う騎士のほうに目を輝かせるはずだ。それにドラゴンが飛んだことに興味を持っても、ドラゴンが作り物でどうやって飛ばしているかに興味を持つのは……まあ普通じゃないな」  子供らしくない着眼点に二人はおかしく思う。 「魔術具が載っている本も、まあ物によっては買ってやってもいいかもしれんな。安くて安全な物に限るが、普段からわがままを言わない子だ。こういう時は応えてやってもいいかもしれん」 「そうですね。その前に欲しがったのが勉強のための本なのでそれくらいならいいかもしれませんね」  そんなことを談笑しながら、二人は仕事に戻っていった。  その頃サミュエルは、案内された倉庫で初めて本物の魔術具と対面しようとしていた。  これまで本でしか知らなかった不思議な道具。その実物を見られることに胸を高鳴らせながら、サミュエルは倉庫の扉が開くのを待っていた。果たしてどのような物があり、どのような仕組みで動いているのか。期待と好奇心でいっぱいだった。

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