曇りの夜空 / 第9話

第九話 ラブレター♡

 部屋の中に入った瞬間、肺一杯に吸い込まれていくお姉ちゃんの薫りにあたしの全身は激しく歓喜し、細胞が癒されていく。 「あっ、夢邦。お帰り!!」  守って上げたくなる小さな手を振りあたしを迎え入れてくれた。あたしは応じる。 「お帰りお姉ちゃん。遅くなっちゃってごめんなさい」 「全然いいよ。それより見て見て!!」  お姉ちゃんに促されるままに穴の開いた床下を見ると見覚えのあるチビが壁に向かって険しい顔をしていた。  まぁそれはそれとして。 「叔母さん、久しぶり」  背後で息を潜めていた叔母さんこと、初川真絹が恥ずかしそうに笑った。 「うっ……ビックリさせようとしたのに気づいてましたか」 「叔母さんは良い匂いするから嫌でも気づくわ。色気は気配を増幅させるわよ」 「なるほど。しかし詠史さんのタイプの女になる為に精進することが私の生きる道、抑えることは出来ませんね」 「はいはい、それでいいと思うわよ」  ふふふ♪ 相変わらずバカに首ったけで羨ましいことね。 「というか夢邦、身体ビショビショだよ!! 何があったの?」 「着衣水泳を楽しんできただけよ。心配しないでちょうだい」 「ええ、いいなぁ……じゃなくって、そんな恰好じゃ風邪ひいちゃう!! 早くお風呂入って着替えないと」 「分かってるわよ。その前にお姉ちゃんの顔を見たかっただけ」  しっかりと網膜にあたしを労わるお姉ちゃんの姿を焼き付ける。その時ついでに詠史が頭を悩ませているであろう、暗号にも目を向けてみる。 『私、真絹は③カラーの服を着た今日、愛する④に②を揉んでいただきたいです。  もし、それを望まれないならば①の方にゴーです』  ふーん…… 「叔母さん、詠史へのラブレターを書くのに苦労を惜しまないわねぇ」 「流石夢邦ちゃん、もう分かっちゃいましたか。  私の詠史さんへのLOVEを詰めた暗号文の答えを」 「ええ。叔母さんと詠史の関係性が分かってないとどんな天才でも解けそうにない暗号ね。詠史なら十分に解けそうだけど、相変わらず頭の固い野郎ね」 「すぐに謎を解いて私のLOVEを脳みそに焼き付けてくださいますよ」  詠史脳極まれりね。 「まぁ良いわ。じゃああたしはシャワー浴びてくるから。思う存分詠史と乳繰り合ってなさい」 「お任せください!!」 「真絹ちゃん、ちちくりあうって何?」 「詠史さんとラブラブするってことです!!」 「へぇ~~。じゃあ私も詠史君とちちくり合いたい!」  お姉ちゃんの無邪気な言葉にあたしは反射的に言葉で切り込む。 「ダメよ、詠史は叔母さんのものなんだから」 「そーなの?」 「そうなんです。すいません琴流ちゃん、いくら貴女でも詠史さんと乳繰り合わせるわけにはいかないんですよ」 「そっか……私もレディーだもんね。ごめんなさい、真絹ちゃん」  叔母さんが「良いんですよ」とお姉ちゃんの頭を撫でているのを見ながらあたしはシャワー室へと向かって行った。その最中 『夢邦、電話だよ。夢邦、電話だよ』  お姉ちゃんの声を録音した着信音が響く。 「もしもし、どうしたのかしら雫?」 『今大丈夫?』 「ええ問題ないわ」 『実はね、あんたと一緒に水責め受けていたおじさんのボディチェックを改めてしていたらさ、なんとビックリ何があったと思う?』  弾ませた声から、ニヤニヤしている顔が容易に想像できる。あたしは大きく溜息をつき「あいつパンツ一丁だったけど、まさかまさぐったのかしら」と一言だけ伝える。 『そんなわけないでしょ、まったく可愛げがない上に洒落も分からない奴ね。  本当は花染家に投函されてたわ。グーちゃんからあんたへのラブレターがね』 「……へぇ。そいつは嬉しいわね」  あの野郎、今度は何を伝えてくるつもりなのかしら。まったく、厄介ストーカーを得てしまった女は辛いわね。

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