りんたろ / 第15話

15 帰郷 【ハランド編完結】

僕たちはラピッド領に帰ってきた。 一面の金色に輝く麦畑。 レンガ作りの家々が立ち並ぶ。 人口は多くないが、それなりに活気のある大通り。 僕らはそこを抜けて家路を急ぐ。 ≫ 「父さん、母さん、ただいま」 「キョウ!心配してたんだぞ」 この領主の父、ルカ=ラピッドが声を張る。 「父さん、いつも貴方のことを心配してそわそわしてたのよ」 母のシリが微笑みながら出迎えてくれる。 「リリスもお帰りなさい。旅路は大変だったでしょう。 ところで、こちらの女性の紹介をしてくれるかしら?」 「彼女はキキラ。旅の途中で仲間になってくれたんだ」 「お初目にかかります。 ヒーラーを務めさせていただいております、キキラと申します。 たとえどんな傷でもキョウさんは私が癒しますので、ご安心を」 キキラが白髪をなびかせながら優雅に挨拶をする。 さすが大人である。 「おじさん、おばさん、ただいま! キョウがふがいないからわたしがいつも助けてやってるわ!」 リリスの言葉には一切の配慮がない。 「キキラさん、リリス、キョウを守ってくれてありがとう。 父としてお礼を申し上げたい」 深々と頭を下げる。 「それにしてもどうして急に帰省してきたのかしら?」 「ダンジョンで手に入れた薬をアキに試したいんだ」 懐から白く輝く液体の入った瓶を見せる。 母が驚く。 「私はポーションに精通しているつもりだけど、こんな薬は見たことがないわ」 「これはダンジョンの隠し層でドロップしたんだ。僕とリリスの願いをかなえてくれるものであれば、アキの薬に違いないと思う」 ≫ アキの身体は点滴につながれている。 身体の状態を示す魔道具のモニターが、ピッピッと音を立ててアキの鼓動をおしえてくれている。 「あれからアキの様子は?」 「あなたが旅立つ前と同じ。寝たきりで目も開いていないわ」 母が悲しそうに言う。 僕は主治医に頼み込んで例の白く発光する液体を点滴に混ぜてもらう。 本当にアキの精神汚染を治す薬なのだろうか。 一抹の不安がよぎる。 ベッドのかたわらの椅子に腰かけ、アキの手を握る。 ≫ いつの間にか寝てしまっていたようだ。 もうすっかり日が暮れている。 突然握っていたアキの手がぴくっと動いた。 アキがゆっくりと瞳を開ける。 「アキ!キョウだよ!わかる?」 返事はないが視線は僕を向いている。 「みんな!アキが目を覚ましたよ!」 居間で談笑していたみんなが走ってくる。 「アキ!」 それぞれが思いのまま声をかける。 アキはそれぞれに視線を向ける。 「ああ、アキが目を覚ましてくれた...」 母が泣き崩れ、父がそれを支える。 「アキ、わたしリリスよ。わかる?」 アキとリリスの視線が交錯する。 リリスの目に涙が宿る。 キキラは神に祈りを捧げてくれている。 あの日救えないと思ったアキが目を覚ましたのだ。 それぞれの反応を見ながら事実を再確認する。 ≫ アキを呼び覚ましてくれた液体。 僕はそれを精霊水と名付けた。 点滴を続け数日が経った。 目的なく何かを追いかけるようにふらふらと振るだけではあるが、今ではアキは手を動かせるようになっている。 相変わらず口は開き視線は定かではないが、回復している。 僕らは喜び合った。 ≫ 僕らは小さな祝賀会を開いた。 父さんと母さんに旅路の話をする。 冒険者になったこと。 キキラと仲間になったこと。 ダンジョンを踏破したこと。 うんうんとうなずきながら聴いてくれる。 「ヒュドラが首をぶんぶん振り回してキョウを狙ってかみついてきたの。 そこをわたしのスキルではねのけて救ったのよ!」 リリスが盛り気味に話をする。 「キョウさんはスキルがない中、鍛錬と的確な判断で私たちを導いてくれています。 非常に頼もしいです。 なのでお父様、お母様、ご安心ください。 私も冒険者の端くれ。 キョウさんの強さは私が保証します」 両親は喜んでいる。 「それに...キョウさんは私が命に代えてでも守ります」 「ありがとう、キキラ。君がいれくれて僕は本当にうれしい」 キキラが僕を見てくる。 少し顔が赤く染まっている。 「ちょっと、わたしもいるんですけど!」 リリスが話に割って入り、皆が笑う。 久しぶりに暖かい団らんを楽しんだ。 ≫ 翌日、僕とリリスはリリスの父、ゴウのところに出向いた。 キキラは僕たちの故郷を見て回りたいと散策をしに行った。 ゴウは僕とリリスに剣術のけいこを仕込んでくれた人物だ。 元冒険者で今はこの領の自警団の団長。 レベルは40だ。 「よう、キョウ。顔つきが精悍になったじゃねえか」 わしわしと頭を撫でてくる。 「リリスから旅の話は概ね聞いてる。 詳しい説明はいらねえ。とりあえず剣を取れ」 促されるままに銅剣を手に取る。 「まずはリリスからかかってきな」 「わたし、新しいスキルも覚えて強くなったのよ! もう父さんには負けないんだから。 リリスのレベルは15。 レベル差だけを見れば実力差は圧倒的である。 だがリリスの目は闘志に燃えている。 向かい合って一礼した後、稽古が始まる。 ≫ リリスは剣を高めに構え、攻めの姿勢。 一方ゴウは剣を引き寄せて防御の形をとる。 先に静寂を破ったのはリリスであった。 「スキル・刺突!」 前方に俊足で加速し強烈な突きを繰り出す、リリスの最も火力の高い技である。 いきなり間合いがつぶれたことにゴウが少し驚いた。 「前よりも速くなってるじゃねえか。成長したな」 「これだけじゃないわよ!スキル・剣舞!」 一振りで同時に2閃を繰り出すスキル。 初見にもかかわらずゴウは器用にさばく。 「いいスキルじゃねえか。だがスキル頼みじゃオレは倒せねえぞ!」 今度はゴウが攻撃をしかける。 巨躯からは信じられないスピードでリリスに剣を振るう。 リリスは防戦一方だ。 「相変わらず強いわね...でも私は以前とは違う。 スキル・円陣斬!」 周囲を円形に薙ぎ払う技だ。 ゴウは強制的に間合いを取らされる。 その隙をリリスは見逃さない。 「スキル・刺突!」 正面から突っ込むかと思われたリリスが突然軌道を変えた。 ゴウの真横に回り込む。 上段から打ち込む。 ゴウは剣を持ち上げそれを防ぐ。 リリスはパっと剣から手を放し、腰の紅桜に手を回す。 「スキル・居合い斬り!」 ゴウの腹に強烈な一撃が決まった。 勝負ありだ。 ≫ 「おいおい、今のは反則だろ」 「父さんは剣が1本なんて言ってないじゃない。 私は二刀流なの。本来の私のスタイルで戦っただけよ」 ゴウは悔し気な顔をしてから負けを認めた。 「やった!初めて父さんから1本とった!」 リリスが走り寄って僕に抱き着いてくる。 「すごいね、リリス! まさか剣を持ち替えるだなんて思わなかったよ」 「へへん。キョウの戦いを見ながら私も成長してるのよ!」 僕の剣術にはスタイルがない。 カウンター型が基本だが、状況に合わせて臨機応変に対応することを第一にしている。 それがスキルのない僕にできる戦い方だからだ。 「キョウとも一戦やりたかったが、腹がいてえ。 リリス、稽古なんだからもうちょい加減しやがれ」 「レベル差があるのよ、加減なんてしてたら勝てないわ。 キキラが戻ってきたらヒールしてもらいましょ」 その後、僕はゴウから冒険者時代につちかった色んな魔物の攻撃について教えてもらった。 ≫ 日が暮れて僕の家で晩御飯を食べる。 リリス、キキラも同席している。 「キョウ、これからお前はどうするんだ?」 父が聞いてくる。 「ダンジョンからドロップする薬がアキに効くことがわかったんだ。 これからも各地のダンジョンを攻略して薬を集めるよ。 近場から順番に回るとして、次はアニトの街かな」 「あそこは魔法使いが多い街だな。今はパーティーに魔法使いはいないだろう? 魔法使いがいると戦闘がより有利になるぞ」 魔法使い。 魔法はこの世界の3大スキルのうちの1つだ。 攻撃魔法だけでなく、味方を強化する身体強化、魔道具を作る生成魔法。 様々なものがある。 僕らは3人で武器をもって相手をかく乱することで勝利を収めてきた。 だがあくまで接近戦。 40階で出会ったワイトキングのように、間合いを詰められない敵には今は対抗する手段がない。 魔法使いがいれば遠距離からの攻撃ができる。 「魔法使いか。そうだね、いい人がいないか探してみる」 その日はこの1か月に領で起きた話を教えてもらった。 ≫ 次の日、僕らは出立した。 目指すは魔法の街、アニト。 アニトの近くにもダンジョンがある。 目的はアキの治療薬の入手と新たな仲間を探すこと。 僕らは歩き出した。

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