芦名 雅 / 第3話

第3話 まだ走れメロス

何度目かの朝だった。 もう、律儀に数えるのはやめていた。 メロスは、もはや驚かなくなっていた。 「よし、今日のルートは」 頭の中に、これまでの失敗を並べる。 氾濫、山賊、崖崩れ、体力切れ。 「全部避ければ、いいだけの話だ」 冷静に、というより、どこか投げやりな冷静さで、メロスは走り始めた。 氾濫の少し上流に、太い丸太が一本、岸に引っかかっていた場所があったのを、メロスは思い出した。 前回のループで、逃げ場を探して岸をさまよっていた時に、たまたま目に留めていたのだ。 「あそこだ」 迷わず、その場所へ向かう。 丸太は、記憶通りの場所にあった。 「よし」 それを使って、濁流を渡り切った。 山賊は、事前に見た記憶を頼りに、遠回りせず、正面から叩き伏せた。 「弱点は分かってる」 無駄のない動きで、山賊を打ち倒す。 体力の消耗は、これまでで一番少なかった。 「今日こそは」 刑場が見える。 セリヌンティウスの姿も見える。 太陽の位置から見て、時間も、ぎりぎり間に合う。 「セリヌンティウス、待ってろ!」 叫びながら、最後の力を振り絞った。 あと少し。 その時、刑場へ続く狭い通りの先で、荷車の車軸が折れた。積まれていた石材が道一面に崩れ、群衆が一斉に押し戻される。 「え」 偶然にしては、あまりにも出来すぎていた。自分が道を変え、時間を縮めた日に限って、今まで起きなかった障害が目の前に現れる。 日の傾きから見れば、処刑の刻限まではまだ僅かにある。だが、石材と人波を越えて回り込むには、その僅かな時間が足りない。 「俺が早くなったからって、今度は道の方が塞がるのかよ」 もがいているうちに陽が沈み、刑場ではセリヌンティウスの体が、磔の柱へ引き上げられていく。 「まだ、あと少しだったのに」 世界が、また白く塗りつぶされた。 気がつくと、また羊小屋の中だった。 メロスは、もう驚く気力すら失っていた。 「まだ、続くのか、これ」 また、失敗した。 しかも、今回は、自分のミスというより、まるで自分の工夫に合わせて世界の側が帳尻を合わせたようにも思えた。 「一体、何が正解なんだ。近道を探すほど、別の何かが邪魔をしてくる」 答えの見えないまま、メロスは、また旅装を整え直した。

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