清涼院良水(@kuutei) / 第3話

第3話 練習

 翌日。  公園に着くと、栞はもう来ていた。 「あ、結城くん! こっちこっち!」  少し離れたところから、栞が大きく手を振っている。  奏多は軽く手を上げて応え、そのそばまで歩いていった。 「おはよう、七瀬さん」 「おはよ!」  栞の足元には、昨日も見たスマホ一式が置かれていた。  ただし――今日は二つある。 「それ、二つあるけど……?」 「あ、こっちは森下先輩に借りてきたの!」 「森下先輩?」 「スマホ部の先輩!」  栞はそう言って、片方を奏多に差し出した。 「今日はこれ使って練習しよ!」 「うん」  奏多は受け取る。  借り物だと聞くと、なんとなく扱いも慎重になった。  すると栞が、今度は手を差し出してくる。 「じゃ、結城くん。スマフォ貸して」 「スマフォ?」 「武器とか設定するから!」 「ああ」  奏多はポケットから自分のスマフォを取り出して、栞に渡した。  栞は慣れた様子で画面を操作し始める。  その横から、奏多が覗き込んだ。  画面には、いくつもの名前が並んでいる。  ブレード。  シールド。  ライトシューター。  さらに別の項目にも、回線修復、オーバークロック、ラグ――。  栞の指が次々とそれらを選んでいく。 「いっぱいあるな……」 「いっぱいあるよー」  さらにスラッシュウェーブを設定して、栞は満足そうに頷いた。 「よし!」  スマフォを奏多へ返す。 「できた!」 「早いね」 「じゃあ、やってみよ!」  二人はスマホを身につけ、向かい合った。  準備を済ませる。  やがて、奏多の視界にフィールドが広がった。 「おお……」  昨日は外から見ていたものが、今日は自分の周囲にある。  思わず辺りを見回してしまう。 「結城くん、まず武器出してみよ!」 「あ、うん」  言われた通りに操作する。  先ほど栞が設定していた武器が表示された。  奏多は、その中からブレードを選ぶ。  次の瞬間。  手元から光が伸びるように、ブレードが生成された。 「おお!」  奏多はすぐに自分の手元を見た。  握っているのはグリップだ。  けれど視界の中では、その先に確かに武器がある。  軽く振ってみる。  ブォン、とブレードが空を切った。 「おお……!」  もう一度。  今度は少し大きく振る。 「これ、本当に自分で振るんだ」 「そうだよ!」  奏多はもう一度、ブレードを振った。  さっきより少し速く。  栞が楽しそうに笑う。 「じゃあ、私に当ててみて!」 「え、いいの?」 「対戦なんだから!」  栞も武器を生成する。  奏多は少し戸惑いながらも、ブレードを構えた。 「じゃあ……」  一歩近づいて、振る。  栞が避ける。 「あ」 「ふふん」  もう一度。  今度は反対から。  しかし、それも避けられた。 「……当たらない」 「ちゃんと狙わないと!」 「狙ってるよ」 「ほんとにー?」  栞が笑う。  奏多は少しだけむっとして、もう一度構えた。  今度はすぐに振らない。  栞を見る。  距離を見て、一歩近づく。  そして――振った。 「あっ」  ブレードが栞を捉えた。  奏多の視界に表示されていた数値が変化する。 「あ、減った」 「それがなくなったら負け!」 「なるほど」  奏多は表示を一度確認すると、すぐにまたブレードを構えた。 「じゃあ今度は結城くんね!」 「え?」  栞が武器を構える。 「ちょ、ちょっと待って」 「いくよ!」  栞が踏み込んできた。  奏多は反射的に身構える。 「武器で防いで!」 「武器で?」  慌ててブレードを前に出す。  二人の武器がぶつかった。 「おっ」 「そうそう!」  奏多は少し驚いて、自分のブレードを見る。 「これで防げるんだ」 「うん!」 「じゃあ――」  今度は奏多が振る。 「わっ!」  栞が慌てて受ける。  そのまま奏多がもう一度。 「待って待って!」 「今の当たった?」 「当たった!」 「あ、やっぱり?」 「やっぱりじゃないよ!」  綺麗な攻防とは、とても言えなかった。  栞も対戦が上手いわけではない。  奏多も、今日初めて触ったばかりだ。  振って。  避けて。  たまに当たって。  防ごうとして間に合わなくて。  それでも、少しずつ二人の動きが大きくなっていく。  しばらくして、奏多がふと手を止めた。 「そういえば、さっき他にもあったよね?」 「あるよ!」  奏多は武器を切り替える。  表示された中から選んだのは、ライトシューターだった。  ブレードが消え、新しい武器が生成される。 「これ、撃てるの?」 「撃てるよ」 「こう?」  奏多が栞へ向ける。 「え、ちょっと待っ――」  光弾が飛んだ。 「わっ!」  栞が慌てて避ける。  奏多が少し笑った。 「おお」 「急に撃たないでよ!」 「当てていいんでしょ?」 「そうだけど!」  もう一発。 「わっ!」  栞が逃げる。  奏多が追う。 「ちょっと、結城くん!」  さらに一発。  今度は栞も武器を構えた。 「もう!」  栞が反撃する。 「あっ」  奏多も避ける。  ライトシューターを構え直す。  撃つ。  避けられる。  もう一度撃つ。  また避けられる。 「速いな……」 「当たらないでしょ!」 「じゃあ、もうちょっと近くから」 「来ないで!」  いつの間にか、教えているのか遊んでいるのか分からなくなっていた。      * 「こんな感じかな!」  ひと区切りついたところで、栞が言った。 「だいたい分かった?」 「うん」  奏多は答えながら、手元のグリップを見る。  少しだけ考える。 「……もう一回!」 「え?」 「もう一回やろ」  栞は一瞬きょとんとして――すぐに笑った。 「いいよ!」  二人は再び向かい合った。  今度は最初から、奏多が迷わずブレードを生成する。  踏み込む。  振る。  栞が避ける。  追いかける。  ライトシューターに変える。  撃つ。 「わっ!」  逃げる栞を、奏多が追う。  さっきよりもずっと、二人の声が公園に響いていた。      * 「今日はこのくらいにしよっか」  練習を終え、栞がスマホを外した。 「うん」  奏多も外す。  さすがに少し疲れた。  けれど、嫌な疲れではなかった。  栞は奏多のスマフォをちらりと見る。 「結構できてたし――」  少し考えてから、笑った。 「明日の大会でも、この構成でいいかもね!」 「うん」  奏多は素直に頷いた。  明日は大会。  今日とは違う。  今度は、本当に知らない相手と戦う。  奏多はもう一度、手にしたスマホを見た。

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